Amazonは、同社を退職起業する社員のために最大10,000ドルのスタートアップ費用と3ヶ月分の給与を支払うと発表。自社配送網の拡大を目指している。
AmazonはADSP(Amazon Delivery Service Partner program)と呼ばれる配送ビジネスを昨年6月に発表。このプログラムは車両のリースや保険を格安で提供し、トレーニングやAmazon所有の各種施設の活用権利を提供することで、起業家や中小企業の宅配ビジネス参入を支援するもの。発表から1年となる2019年5月に従業員向けのADSP奨励発表となり、Amazonは配送パートナーの拡大に依然苦しんでいることが見て取れる。
Amazonはウェブサイト上でADSP参加対象の説明を行っている*1が、彼らのターゲットはやはり小規模の経営者もしくは個人の副業である。2015年から既にAmazon Flexと呼ばれる個人事業者向けのプログラムを提供しており、自分で配送用のトラックを持ち込むことを前提に、自分で配達地域と時間を決めてAmazon商品の配送ビジネスに参加できるフレキシブルな就業を可能にしている。ADSPはこれを法人企業向けに拡大し、車両や保険などの提供を加えたもの。そしてそのADSPを自社の従業員に推奨するために支援金を提供するのが今回の発表である。
こういったシェアリングエコノミーに立脚した労働力の確保は現在のトレンドとも言え、Uberなどのライドシェアやクラウドソージング・サービスで空き時間を労働に変えるワークスタイルは一般的なものになっている。一方で、プラットフォーム提供側の労働力搾取が問題となっているのも事実である。Amazon Flexのリリース後、Amazonの過酷な労働状況をソーシャルメディア上で告発するプログラム参加者が現れ、議論を巻き起こしている。Uberもドライバーたちからの慢性的な賃上げ抗議に悩まされているし、フードデリバリーの大手各社も配送員に訴えられるなど、労働者側から何かしらの反発が常に生じているのがシェアリングエコノミーの現在位置であるといえる。
ADSPが法人を対象としているのも、バラバラの個人よりも管理しやすく、炎上リスクも低いと考えてのものかもしれない。そして、大きすぎる法人も問題だ。ラストワンマイル配送の主力であったUSPS(アメリカ合衆国郵便局)への報酬が低いことでトランプ大統領に名指しされ、FedExとの配送契約はとうとう終了してしまった。こんな状況から、中小企業の配送事業参加を活性させることは、今後のAmazonにとって死活問題となってくるかもしれない。高級スーパーのWhole Foods買収やAmazon Lockerの配置拡大は、自宅配送以外の選択肢を提供することで配送需要を低く抑える意味合いも含んでいるだろう。
ともあれ、無敵と思われたAmazonも、配送という最大の差別化ポイントで厳しい状態に置かれている。
引用情報:
*1
Amazon.com(2019), Amazon Delivery Service Partner, retrieved from
https://logistics.amazon.com/参考情報:
WIRED.com(2019), WHY AMAZON IS GIVING EMPLOYEES $10,000 TO QUIT, retrieved from
https://www.wired.com/story/amazon-delivery-paying-employees-to-quit/