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Apple CardとDaily Cashは決済DXの黒船か:前編

作成者: 金澤 一央|Dec 11, 2019 4:30:43 PM

タッチ決済WalletとしてのApple Pay

Apple PayはiPhone、Apple WatchなどのApple社デバイスを用いた非接触型決済サービスであり、利用者は同デバイスにクレジットカードなどのカードを登録して、店舗のリーダーを通じた決済が可能になる。

Apple Payは2014年10月から展開を開始、翌2015年にイギリス、カナダ、オーストラリアで、2016年中国を皮切りに日本やシンガポール、スイス、フランス、スペインなどに世界拡大を本格化した。2019年9月現在、57カ国で利用可能となっている。

同サービスは原則としてNFC A/B(Near Field Communication)規格によるタッチ決済を利用しており、日本が採択したFelica規格とは異なるためApple Payが使えないという事態が発生していたが、現在のApple端末は双方の規格を内蔵したため、この問題は解決している(iPhone8以降)。また、日本の先行規格であるFelicaに対応したことで、Suica、QuickPay、IDなどの既に端末実装されている店舗や交通機関で利用可能。各種コンビニやユニクロ、ビックカメラなどの量販店でも使うことが出来る。

また、Apple Payはタッチ決済だけを意味するものではない。基本的にはiPhoneのWallet機能とセットになっている。利用者は任意のクレジットカードやプリペイドカードをWalletに登録し、デバイスを用いた決済に利用可能とする。この、カードの紐付け管理と決済装置のセットがApple Payというサービスである。この決済装置としての機能には、店舗でのタッチ決済だけでなく、アプリ内課金も含まれる。タクシー配車のUberやLyft、宿泊のAirbnbやフード宅配のUber Eatsや出前館などのアプリで、決済先をApple Payにすることが出来る。ちなみにStarbucksも、店舗のタッチ決済でApple Payは使えないが、アプリの決済先にApple Payを接続することが出来る。

つまり、Apple PayはiPhoneなどのAppleデバイスに財布の機能をもたせたWallet機能を進化させ、タッチ決済を可能にさせたものといえる。

 

日本人にとってApple Payは、「何をいまさら」といった機能であろう。何故なら、既に我々は2001年からSuicaを利用し、ガラケーでのおサイフケータイも経験している。よほどのApple信者でなければ、タッチ決済機能にいちいち騒ぐ必要はない。実際のところ、日本のタッチ決済は世界中で驚かれ、羨望の眼差しを受けていた。筆者は、2004年頃だったか、ユタ州で開かれたOmniture社のパーティに参加した。アクセス解析でその名を轟かせたSite Catalystを開発した会社で、アメリカでも世界でも当時先進性を誇った会社である。その社長のJosh Jamesと話したときに彼が言ったのは「日本が世界に誇るものは牛骨ラーメンとSuicaだ」。牛骨ラーメンは彼が日本出張時にかなりハマったらしいので極めて個人的な好みの話だが、Suicaについては絶賛していた。

「東京はもう未来都市みたいなもんだ。なんでこんな事ができるのか。」

そして、その後、Suicaに始まったタッチ決済はまたたく間に浸透した。しかし、SuicaはSuicaのままだった。つまり、タッチ決済ができるプリペイドカード以上のものにはならなかった。

ではApple Payはどうか?

Apple Payは先程、Walletとタッチ決済のセットであると述べた。SuicaがiPhone内蔵されたようなものであり、目新しくもないとも思える。しかしApple PayはApple Payのままであることをやめようとしている。それが、Apple Cardであり、Apple Cashである。

 

Apple Cardとはなにか

Apple Cardは2019年3月に発表、配布開始は8月のできたてホヤホヤのサービスである。個人的にはiPhone11よりよっぽどインパクトが強いのだが、残念ながら日本での展開は未定だからか、全く話題になっていない。非常に簡単に説明すると、デジタルクレジットカードであり、番号が書かれていないチタン製カードでもある。

このカード、iPhoneから簡単に申請可能で、18歳以上のアメリカ市民もしくは有効なビザを持っている居住者なら誰でも申請できる。つまりSSN(Social Security Number)があれば良い。Walletからカードを登録する容量で個人情報を送信すれば、まず限度額とAPR(Annual Percentage Rate:リボ払い時の年利)が「先に」オファーされる。正確に言うとWalletアプリ上に表示される。このオファーに応えれば、Wallet上にApple Cardが表示される。つまり、すぐにApple Cardが使えることになる。基本的にApple Cardはデジタル上の概念のようなもので、必要があれば物理的なチタンカードの発行を要求することも出来る(しなくてもいい)。ちなみにこのチタンカードにカード番号は刻印されておらず、番号確認が必要な場合はiPhoneのWalletから確認することになる。そして、年会費は無料。遅延損害金も限度額超過手数料も発生しない。

 

↓アップル公式動画↓
https://www.apple.com/apple-card/how-to-videos/#film-find-card-number

 

Apple CardはさすがはWalletに紐付けることを前提としたカードであり、これにともなってWalletにはApple Cardの管理機能が追加された。極めてAppleらしい、秀逸なUXを提供している。残り利用残高や支払額をすぐにメーターで確認でき、支払額の変更もリボ払いの利率が確定するタイミングもわかる。自分が何にいくら使ったかがグラフと色でわかる。Wallet上に表示されるApple Cardは最初は無垢で真っ白だが、決済で利用するたびに色が変わる。例えば飲食の決済に使えばオレンジ色のグラデーションがかかり、いろいろ使えば虹色のグラデーションになる。

 

 

細かい操作法はアップル公式の秀逸なムービーを見ていただくとして、このApple Cardが拡張する、本質的なApple Payの提供価値についてお話したい。

Apple Pay 説明動画:Get the most out of Apple Card

https://www.apple.com/apple-card/how-to-videos/

 

Apple CardとApple Cashが拡張する、Apple Payの提供価値

ご覧の通り、Apple Cardはクレジット機能を提供するものであるが、Apple WalletおよびiPhoneなどのデバイスとセットになって初めて価値を最大化出来るサービスである。現在、アメリカではカードの利用額のリアルタイム確認は非常に一般的で、各カードが提供するアプリの標準機能となっている。身に覚えのない利用を検知すれば、アプリからすぐにカードをストップして再発行を依頼することが出来る。Apple Payに限らず、スマホアプリにカードを登録する事が多い昨今では、この機能はなかなか大事である。何故なら、消費者は物理的なカードを出すことが非常に少なくなるので、カードの紛失すら気づかないことがある。少額決済でもリアルタイムでカード履歴を確認出来ることは、もはやアメリカでは必須機能と言っていい。そして、Apple Payは、Apple Cardを紐つければ、どのクレジットカードアプリよりも便利でわかりやすい管理機能を提供できることになった。ここまでは、各カード会社が努力すれば(別々のアプリを開くという煩わしさはあるが)追いつける提供価値である。

ここにApple Cashが加わることで、一気に差別化が進む。

Apple Cashは基本的にデジタルマネーを貯めておく財布であり、大きく分けて2つの機能が存在する。1つはPay Cash、もう一つはDaily Cashである。

Pay Cashはいわば送金および着金用の機能。実は2017年にリリースされており、Apple Cardよりも前に機能提供が開始されていた(アメリカのみ)。Apple Pay Cashという名の仮想カードをWallet上に設定し、そこにクレジットカードなどでチャージし、残高を作る。その残高を利用して、Pay Cashユーザー同志でお金を送金する事が可能になる。当座預金口座を持っていれば、銀行への送金も可能である(アメリカで銀行口座を作る時、ほとんどが普通預金と一緒に当座預金もつくる)。言い換えるとプリペイド型の仮想現金をプールし、送金可能にした機能であり、Greendot*1というプリペイド型クレジットカードのスタートアップが提供する仕組みを使っている。送金手数料は無料である。現在アメリカではVenmoに代表されるような割り勘アプリやChase銀行が提供するQuick Payなどの個人間の少額送金が浸透しており、ランチの割り勘代金の支払いや、子供へのお小遣い、ちょっとしたバイト代などの支払いに使われている。こういったサービスの利用者は、小口の金額を送るだけでなく、受け取った仮想現金をアプリ内に貯めることになる。この貯まった残高は次に自分が支払うときに使ったり、ある程度貯まったら銀行口座に送ったりする。そして、Appleがこの機能を持つことで、この残高はApple Payに使える残高となり、様々な店舗で利用することが出来る。

Daily Cashは簡単にいうとApple Cardによる還元ポイントをApple Cashとしてキャッシュバックする仕組みである。Apple Cardには、1%〜3%の還元ポイントがある。

 

3%還元 Apple関連ストアでの決済に適用。Apple Storeの店舗、Apple.comでのオンラインショップ、iTuneやApp Storeでのコンテンツ購買、iOS向けアプリのApp内課金、iCloudのストレージ料金などをApple Cardで決済すれば3%バックされる。
2%還元 Apple Payを利用した決済に適用。店舗であれアプリであれ、Apple Cardを紐つけることで全てのApple Pay決済の2%がバックされる。
1%還元 物理的なApple Card(先述のチタン製)を利用した決済に適用。Apple Payが使えない店舗でも、Apple Cardで決済すれば1%バック。ECでの利用も適用される。

 

そして、このキャッシュバックは、決済翌日にPay CashのWallet上に入る。すなわち筆者がApple.comでMacbook PROを注文した3%、仕事先でスタバのラテを買った2%、居酒屋で飲み会の支払いに使った1%が、翌朝、Daily Cashとして手元のiPhoneに届く。さらに、我々のニュースピックアップでも紹介しているが、この8月にはUberが、9月にはWalgreens(全米ドラッグストア大手)でのApple Card決済が3%のDaily Cashに対応することとなった。また、ソフトバンク所有のSprintとの合併で話題になった携帯キャリアのT-mobileからも、iPhone購入などに3%のDaily Cash対応*2が発表されている。

ともあれ、Appleは2014年のApple Payリリースから、金融ビジネスに力を入れている。Apple Payの浸透によって、iPhoneイコール財布すなわちWalletとしての認識浸透に成功した。この発射台の上にApple Cashという移動可能で汎用に使えるバーチャルマネーを載せ、Apple CardとDaily Cashという、Apple Cashの流通量を増やすサービスを投入することで、消費者のiPhoneの中にちゃりちゃりとお金が貯まる仕組みを作った。Apple Pay利用者は、特に節約に気を使わずとも、気軽に使える小銭=Apple Cashがそれなりに貯まる。その貯まった小銭は、近所のスタバでもドラッグストアでも使え、タクシー(Uber)でも使える。しかも、基本的にiPhoneと一体化したカードなので、物理カード紛失のリスクもゼロに近い(物理カードにはカード番号などの刻印がない)ので知らないうちに第三者に使われることもない。仮にiPhoneを紛失した場合のリスクは他決済サービスと同じであり、「iPhoneを探せ」経由で遠隔ロックすればよい。

 

 

今後Daily Cashへの参加企業は増えていくだろう。その背景には、小口決済のキャッシュレス化に伴うリテール側の手数料問題、そしてカードの不正利用の問題がある。

次回はこの点を踏まえて、Apple Payがもたらすデジタルトランスフォーメーションを考察してみたい。

 

筆者注:
*1
Green dot
1999年に設立したプリペイド型クレジットカードサービスを提供する企業であり、Y-Combinator出身。FinTechのさきがけとも言える企業。2010年にニューヨーク証券取引所上場を果たした。リフィル型と呼ばれる、再チャージ可能なプリペイド型のクレジットカードを提供し、カードを持てない貧困層や移民、子供達でもクレジット決済が出来る環境を創り上げた。利用者は、ドラッグストアやGMSなどでカードを買い、レジでチャージした現金を上限にカード決済を利用できる。同社はこのプラットフォームをWalmartの小売事業者に提供することでOEM型のプリペイドサービス提供で事業を拡大。2013年には送金手数料無料の無店舗型銀行、GoBankを設立。

引用情報:
*2
T-mobile(2019), T-Mobile is the Only Wireless Provider to Offer 3% Daily Cash on Apple Card, retrieved at Sep. 24th, 2019, retrieved from
https://www.t-mobile.com/news/apple-card

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