デジタル社会に蔓延する「○○疲れ」とDX

Fatigueという英単語がある。要は「疲労」と言う意味だが、特にニュース記事などで〇〇fatigue(疲労)などのように使われる。

例えば、「Contents Fatigue」は、コンテンツマーケティングによって大量投下される似たような商業コンテンツに、「Email Fatigue」なら、毎日のように配信されるデジタルサービスのメルマガやリプライ、DMなどにうんざりして反応しなくなった、もしくは忌避するようになった消費者のトレンドを指して使われる。そして、最近は「Technology Fatigue(テクノロジー疲れ)」や「Digital Fatigue (デジタル疲れ)」という言葉が紙面を賑わし始めている。そして、デジタル・ネイティブでかつデジタル消費の主力である若い女性ですら、「テクノロジー疲れ」に陥っているという。

Business Insiderによると、Gen Z、すなわちZ世代の女性の61%が「テクノロジーから距離を置くことに苦労している」一方で、34%が「常にデジタルにつながっていたいとは思わない」と回答した、という。同社記事の調査母体は消費者データ大手のGfk Consumer Lifeによるもので、21カ国31市場3万7000人を対象とした調査だとしている。この数字を見れば、十分大きな比率で「デジタル中毒」に見えるが、ミレニアル世代の71%に比べると「常にデジタル接続」していたい比率は低下しているという報告である。*1

Z世代とは、1990年後半から2000年代前半に生まれた層を指し、2000年代に成人になったミレニアル層の次の世代である。別の言葉で言えばデジタル・ネイティブであり、生まれたとき既にインターネットがあり、携帯でこれにアクセスでき、eコマースも消費手段の標準として認識している層である。つまり、2019年現在、15歳から24歳くらいの層を指す。

同記事にもあるが、Z世代はテクノロジーが社会に与えるインパクトに悲観的であるという。その「悲観」の構成要素は、身の回りの安心や個人情報の漏洩、ハラスメント、フェイクなどと言ったものである。

また、昨年あたりから「email Fatigue(メール疲れ)」という言葉も散見され始めた。

現代のデジタルキャンペーンにおいて、何らかの登録や購買をすれば、emailの登録がほぼ必須である。emailアドレスは識別IDとしてすら使われる。そして、そのアドレスには様々な確認やお知らせのメールが届くようになる。それはもう頻繁に。そしてユーザーたちはそのうちemailを読まなくなり、ゴミ箱に追いやるようになる。マーケターはそこにリピーターが存在すること信じてメールを打ち続けるので、ますます消費者はメール疲れをしてしまう。コネチカット州のメールマーケティング企業iMPACTのブログによると、キャンペーンなどで送られてくるメールを有用だと思っている消費者は15%にすぎないとしている。要はセグメント・メールの重要性を伝える記事なので彼らの改善サービス説明は割愛するが、筆者もここ数年、明らかに「メール疲れ」をしているので彼らの意見には賛成である。*2

さらに、「decision fatigue(意思決定疲れ)」という言葉もある。

もともと、アップル創業者のスティーブ・ジョブスが「無駄な意思決定時間を割きたくない」という理由で黒のタートルネックとジーンズを愛用し続けたストーリーから、「意思決定疲れ」を減らすことが成功者の秘訣だ、という文脈に使われるようになった。オバマ前大統領もこのセオリーの信奉者であり、マーク・ザッカーバーグもTシャツ+ジーンズで通している(最近はしょっちゅう法廷に立たされるのでネイビーのジャケットと青いネクタイばかりだが)。

最近、特にアメリカでは「○○疲れ」という言葉がよく使われる。そしてそれは大抵、デジタル情報に関連するものを指す。圧倒的な情報量に囲まれる現代において、意思決定の数と決定スピードは、20世紀のそれから考えれば常軌を逸しているだろう。国や企業のトップはもちろんのこと、一般労働者や消費者に至るまで、情報に追いかけられ、意思決定を迫られる。消費者はターゲティング広告やメールに追い回され、配送員は配送依頼を即時に受領し、最適な配送先を秒速で確認する。さらに、消費者はアカウントハックやSNSでのハラスメントに怯え、企業はSNS上で起こる想定外の不祥事を防ぐために、監視ツールなどを導入して逐一チェックしなければならない。

デジタルトランスフォーメーション(DX)の視点から見て、この「〇〇疲れ」の時代に提供すべき価値はなんだろう。

Strategyzerというビジネス戦略のフレームワークを開発する企業が提供するValue Proposition Canvasでは、Pain Reliever(苦痛を和らげるもの)と、Gain Creater(利得を創造するもの)という言葉が使われている。*3

要は、ビジネスにおける価値交換において、提供価値は苦痛を和らげるものと利得を創造するものに集約されるということを意味している。「○○疲れ」は確実にPainであり、これを和らげるRelieverは提供価値になりうるだろう。ともすれば、DXの着想はデジタル化による高速化や自動化をGain Creatorとして提示したくなる。しかし、それによって同時に苦痛を生み出しているかもしれない、ということを忘れてはいけない。

*1
Business Insider(2019), Gen Z women are less likely than millennial women to want to be reachable at all times, and it might be a sign of 'tech fatigue’, retrieved from
https://www.businessinsider.com/gen-z-women-more-tech-fatigue-than-millennials-2019-10

*2 
iMPACT(2018), What is Email Fatigue? Here’s How to NOT Annoy Your Subscribers., retrieved from
https://www.impactbnd.com/blog/what-is-email-fatigue

*3 
Strategyzer(2019), Why use the Value Proposition Canvas?, retrieved from,
https://www.strategyzer.com/canvas/value-proposition-canvas

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