スタートアップ、特にテクノロジー系の育成支援として、ここ数年、その存在感が大きくなっているのがアクセラレータという存在であろう。筆者がインターネット・スタートアップに参加した2000年ごろに流行ったのはインキュベーターという存在だ。直訳すれば加速器と孵化器となるわけで、両者の意義は似ていて微妙に非なるものである。インキュベーターはビジネスの創出そのものに重きを置いているので、ビジネスアイディアを具現化し、一人で歩けるようにするお仕事である。そのために資金を援助し、安価にワークスペースも提供し、似た境遇のスタートアップとのコミュニケーションも奨励する。一方のアクセラレータは、立ち上がったビジネスを、文字通りビジネスを加速させることに重点が置かれる。資金援助よりもむしろ、優秀な先輩経営者のメンターネットワークに参加者をつなげ、ビジネスモデルを収斂するための数ヶ月のプログラムを提供する。メンターネットワークは同時に出資候補でもあり、資金調達や提携の紹介者でもある。
URBAN-Xはスマートシティ開発に特化したアクセラレータで2016年に設立されており、その母体はUrban UsとBMWのMINI事業部の設計部門である。Urban Usはクリーンエネルギーや環境技術を用いた都市開発のスタートアップに専門に投資するマイクロVCで、ファンドの規模は5600万ドル程度である。MINIは自社のデザイナーやエンジニアをメンターネットワークとして提供し、クリーンでインテリジェントな都市開発に貢献するスタートアップを鍛え、ビジネスの成功を加速させる枠割を担う。*1
設立以降、URBAN-Xは1年に最大20社程度のアーリーステージに、1社あたり10万ドル程度の投資と育成プログラムを提供している。*2
Techcrunchなどの報道によると、2019年下期の同プログラム参加権利を勝ち取った7社が発表された。この7社はそれぞれ方向性が異なるが、理想的な都市に必須と思われる様々な領域が網羅されていて非常に面白い。電気自動車の充電サービスやCharge Labや、フードビジネス全般の加工プロセス・品質管理の自動化を提供するCoInspect、建設設計のレビューをAI化したFirmus、物資輸送用ドローンとその給電ステーションを提供するEVA、下水道や洪水防止用のインフラを評価するHadesなどが選ばれている。*3
今回で7期目となるURBAN-Xの選考基準は、同団体の掲げるタグラインの”Reimagining city life”(都市生活の再イメージ)に忠実であり続けている。ともすれば、BMW MINIのビジネス・シナジーに貢献するものを選びたくなりそうなものだが、常にバランスよく、理想的な都市生活を描き、貢献する企業を選んでいる志には敬意を表したい。
引用情報:
*1
URBAN-X
https://www.urban-x.com/
*2
MINI(2019), URBAN-X, retrieved from
https://www.mini.jp/ja_JP/home/explore/urbanx/index.html
*3
Techcrunch(2019), The Urban.Us and BMW Mini accelerator focused on urban innovation names its latest cohort, retrieved from
https://techcrunch.com/2019/12/04/the-urban-us-and-bmw-mini-accelerator-focused-on-urban-innovation-names-its-latest-cohort/