日本初のデジタルトランスフォーメーション(DX)情報メディア | DX Navigator

30億ドルを新たに調達した快手(Kuaishou)が進める動画SNSの脱エンタメ

作成者: DXNavigator 編集者|Jan 6, 2020 4:30:20 PM

快手と呼ばれるショート動画アプリをご存知だろうか? 読みはKuaishouという。そして、中国語圏以外でのサービス名はこれを略してKwaiで統一している。ケーゥァイもしくはクウァイと発音する事が多い。同サービスは7秒〜57秒の動画をアップできるSNSで、TikTokのライバルであり、中華版Instagramとも呼ばれる。中国の調査会社、Equal Oceanが確認した情報によると、Kuaishouはこの12月、30億米ドルのシリーズF調達を完了したという*1。

 

 

知られている通り、各種外資系ネットサービスは、その名もグレートファイアーウォール(金盾)と呼ばれるセキュリティシステムで規制されていて、国内で普通に使うことは出来ない。このため、Googleの代わりにBaidu(百度)があり、Twitterの代わりにWeibo(微博)、Facebookの代わりにRenren(人人網)、LINEなどのインスタントメッセンジャーの代わりにWeChat(微信)がある。そして、ショートムービーをシェアするアプリとして人気を博しているのが、日本でも有名なTikTok(抖音)と、このKwai(快手)である。ちなみに、TikTok、Kwai共に外国向けブランド名で、簡体字表記の抖音はDouyin、快手をそのまま発音するとKuaishouとなる(以下、Kuaishou)。

このKuaishou、日本の記事やブログでは中華版Instagramと呼ばれているが、厳密には InstagramとYoutubeの間、といったところかもしれない。ユーザーは7秒から57秒までの尺でショートムービーをアップし、世界中に公開する事が可能である。ライバルであるTikTokは2019年春の時点でアクティブユーザー5億人と言われているが*2、対するKuaishouは7億人を突破したと言われている*3。

Kuaishouの特徴は、主にユーザー層がTier2,3都市と呼ばれる地方居住者を主要ユーザーとしていること、そして、有料コンテンツの配信である。TikTokはおもしろ動画のシェアサイト的な位置づけで、都会に暮らす若者たちがアップするコンテンツに支えられている。ビジネスモデルは広告主から徴収する広告料やプロモーション料であり、コンテンツ制作者であるユーザーに収益は入らない。一方のKuaishouは、アクセス数に応じてユーザーに広告料金の一部が還元されるYoutube方式を採用している。

2018年アメリカのNewyorker誌が、中国東北部に暮らすLiu Mamaのケースを取り上げた。中国の最果てで暮らす農家のお母さんの飾らない笑顔と、彼女が説明する農村での日常をブラックジョークを交えて届ける動画が人気となり、Liu Mamaは月収10万ドルを稼ぐライブストリーマーとなった*4。

また、KuaishouはKnowledge Paymentと呼ばれる課金コンテンツサービスを提供しており、この市場が大きく拡大している。特定の専門職にある市民が、その専門知識を動画で説明し、チャンネルとして番組提供していく。Kuaishouによると、現在の主力コンテンツは教育と農業であり、これらの教育動画コンテンツは2億件を超えるという*5。

同誌が例えるように、中国の個人動画配信ビジネスは「ゴールドラッシュ」と言える状況と言える。ただ、これまではゲームやおもしろ動画によるエンタメ主導で伸びてきた同セクターに、ナレッジシェアという収益要素が明確に見えてきたことは興味深い。現在、教育システムが整っていない発展途上国においてSNSプラットフォームを活用した教育ビジネスが盛んになってきているが、先進国ほど教育産業が整っていないため、デジタル技術を積極的に活用するスタートアップが参入しやすい背景がある。一方、既に教育大国になりはじめたで中国は、新たな教育産業をデザインしはじめている。教育のDXは、中国から始まるかもしれない。

 

引用情報:
*1
Equal Ocean(2019), Kuaishou Nails a Staggering USD 3 billion in Series F led by Tencent, retrieved from
https://equalocean.com/ai/20191203-kuaishou-nails-a-staggering-usd-3-billion-in-series-f-led-by-tencent
*2
InstaLab(2019), TikTok広告の動画マーケティング、成功事例を見ながら詳しいコツを解説, retrieved from
https://find-model.jp/insta-lab/tiktok-ads/
*3
Equal Ocean(2019), As Chinese Short Video Apps Invade Brazil, TikTok and Kwai Do Battle, retrieved from
https://equalocean.com/high-tech/20191117-as-chinese-short-video-apps-invade-brazil-tiktok-and-kwai-do-battle
*4
Newyorker(2019), The Chinese Farmer Who Live-Streamed Her Life and Made a Fortune, retrieved from
https://www.newyorker.com/culture/culture-desk/the-chinese-farmer-who-live-streamed-her-life-and-made-a-fortune
*5
PR Newswire(2019), Chinese short-video platform Kuaishou named by Apple an app defining the trend of 2019, retrieved from
https://www.prnewswire.com/in/news-releases/chinese-short-video-platform-kuaishou-named-by-apple-an-app-defining-the-trend-of-2019-871305698.html