アメリカでのFintech加熱は続いている。これはスタートアップだけの話ではない。Business Insiderによると、JP Morganは114億ドル、Bank of Americaは100億ドル、Wels Fargoは90億ドル、Citi Groupは80億ドルのテック予算を2019年度に計上した*1。その金融セクター大手の殆どが本店を構えるニューヨークはまた、Fintechスタートアップが花開く場所でもある。世界の銀行を監督するバーゼル金融監督委員会の定義によれば、Fintechは「1.支払決済、2.預金、3.ローンおよび資金調達、4.投資マネジメント、5.マーケティング設備」に分けられ、各領域ごとにAIやブロックチェーンなどの技術領域が分類されている。
中国系リサーチ会社のEqual Oceanによれば、ニューヨークにおけるFintechスタートアップの45%がマーケティング設備に関連するもので、スマホアプリやWEB経由で顧客を獲得したり、維持したりするコミュニケーションおよびサービス提供を指す。最も活用されている技術はAI、そしてSaaSとブロックチェーンがこれに続くが、これらは複雑に組み合わされ、様々なニッチ・ニーズをカバーしている*2。
こうして、細かいニッチニーズに対応するスタートアップが、ウォール街の巨大金融企業に採用され、金融セクターそのものを再構成をしていく、というのが、ニューヨークFintechのエコシステムである。
さて、先述のEqual Oceanによる、特筆すべきニューヨークFintechスタートアップを下記に紹介する。
投資顧問向けの資産管理プラットフォーム。顧客の様々な資産運用口座をアグリゲーションし、運用データを統合して分析や可視化、予測が可能。顧客管理のためのCRM機能やフィーの支払い徴収も可能であり、フリーランスの投資顧問はこれ一つで顧客とビジネスが出来る。
スマホアプリサービスを提供する企業の資金調達支援を目的としている。収益を生んでいるアプリのパフォーマンスを分析して資金調達の選択肢を24時間で提供する。
独自与信システムでECの即時分割払いを提供する。消費者はクレジットスコアを痛めることなく分割払いができ、EC店舗は商機を逃さない。無利子4分割のSplitPayと48回まで分割可能なInstallmentsを提供。
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政府、取引所、銀行にデータと分析を提供するブロックチェーン企業。ブロックチェーンで何が起こっているのか、暗号通貨をどのように使用しているかを顧客に提供するためのより深いインサイトを提供。
新しいアプローチの学生ローンを提供する。主に大学院や専門学校にフォーカスし、独自分析による「ROIの高い学校」と提携を結んで学生に紹介し、ローンを提供する。例えば、スキルアップ教育や就業の斡旋に積極的など、卒業後に高い給料の会社に行ける確率の高い学校と提携し、学生のローン負荷を相対的に低くする。
スマートコントラクトや分散型台帳など、ブロックチェーン技術をベースとしたソフトウェア構築ツール。同じデータを参照する複数のビジネス・アプリケーションを独立して平行処理させる事ができ、処理の高速化と障害規模の最小化を可能にする。
資金提供や融資に関連する企業・専門家のためのクラウド型マルチプラットフォーム。主に中小規模の融資先を対象として、5分で与信を完了させ、同日着金を可能とする。マーチャントへのキャッシングサービスや、与信、ACH送金*3、顧客管理などを提供。通常ACH送金は手数料が安い半面、着金まで2日程かかるのがネックだが、同社は同日送金を提供可能。
eコマース事業者向けのリアルタイム詐欺防止サービスを提供する。顧客行動からカードの不正利用やチャージバック詐欺*4を検知し、決済をリアルタイムでブロックする。
AIと行動経済学を活用し、家財保険や賃貸家屋の保険を高速で処理。保険代理店を挟むことなく、スマホ経由で90秒で審査が完了し、保険の支払いも3分で完了することがセールスポイント。顧客の多くはアパート経営者やコンドミニアムの運営者だが、Airbnbなどの民泊ビジネス隆盛で脚光を浴びている。
パーソナルローンのFintechだが、各種銀行口座を接続することで資金状況をダッシュボード化し、自身のクレジットスコアを常に確認しながらローンを組むことが出来る。資金繰りなどを機械学習し、資金ショート時に短期ローンの提案などを行う。すべてスマホ完結。2019年のFINnovation Awardを受賞。
ニッチな消費者融資市場に焦点を当てたPOSファイナンスプラットフォーム。オートバイやジェットスキー、スノーモービルの購買に特化し、ディーラーが顧客のためにローンを組むとき、複数のローンプランをすばやく参照・推奨することが可能になり、ディーラーはチャンスロスを軽減でき、顧客はより低い金利でお気に入りのバイクを手に入れる。
信用情報だけでなく様々なデジタル財務記録を機械学習で分析し、より柔軟な与信を可能にしたクレジットカード会社。クレジットヒストリーが少ない(もしくは無い)、移民や留学生、若年層への消費喚起が期待されている。
米国の規制を通過した安定的仮想通貨Paxos Standard(PAX)を発行し、米ドルと等価交換することで世界中への高速低コスト送金を可能にするブロックチェーン企業。金の仮想化とデジタルトレードを行うPaxos Gold(PAXG)も提供。
ブロックチェーンのオープンソースソフトウェアCordaを自社開発・提供し、金融サービスを中心とした新しいオペレーティングシステムを構築を支援する。現在Cordaをベースとしたエンタープライズソフトウェア、Corda Enterprizeをリリースし、民間・公共双方で広範なエコシステムと連携している。
独自アルゴリズムで高速かつ素早い個人認証(いわゆるKYC:Know Your Customer)と詐欺探知を提供し、個人情報の盗難や関連する不正行為のリスクと軽減する次世代のセキュリティSaaSソリューションを提供。
投資・金融知識の教育・銀行の機能を一つのアプリにシームレスに繋げた、個人向け資産管理アプリを提供する。Stashに銀行口座を繋げ、登録したクレジットカードで消費することで自己資産の流動状況を把握し、適切な金融知識と選択すべき投資商品を学習し、予算があれば投資を行う、といった流れを一つのアプリで提供する。金融知識が低く、投資予算も少額な労働者や学生などをターゲットとしている。
金融機関や航空会社、工業メーカーなど重要なインフラを担う企業や団体に向けた未知の脅威を検出するソリューション・プロバイダー。詐欺や不正融資、マネーロンダリングなどをビッグデータ分析から検知・予測する。
金融機関にデジタル仮想通貨市場向けの幅広い実行および分析ツールを提供する。暗号通貨、取引、規制、マイニング、プロトコルの更新、ブロックチェーン分析、および経済発展に関する分析の結果を金融機関に提供するグローバルソースとして機能している。
信用取引を専門とするデータ、テクノロジー企業であり電子商取引プラットフォーム、Trumid Market Centerを提供する。社債市場の専門家に流動性や市場情報を提供し、効率的なトレードを実現する。
未公開株や鉄道インフラなど、機関投資家やヘッジファンドに独占されてきたオルタナティブ投資の市場に、一般投資家のアクセス可能にする投資プラットフォームを提供する。
(ABC順)
引用情報:
*1
Business Insider(2019), Here's a breakdown of how much US banks are spending on technology, retrieved from
https://www.businessinsider.com/heres-a-breakdown-of-how-much-us-banks-are-spending-on-technology-2019-3?r=US&IR=T
*2
Equal Ocean(2020), Finch in New York City: 20 Valuable Startups, retrieved from
https://equalocean.com/financial/20200205-fintech-in-new-york-city-20-valuable-startups筆者注:
*3
ACH送金
Automated Clearing Houseの略で日本語に訳すと自動資金決済センターとなる。資金移動のための金融機関のネットワークの一つであり、ACHと呼ばれる機関が送金処理を一元的に担当するため、コストは低い(1回$1程度)が処理が遅く、着金が遅くなる。小口送金のみ(1日の上限が$25,000)。日本で言えば全銀システムに該当。ちなみに高速送金のWire Transferはほぼ即時送金が可能で上限があるが、送金先をピンポイントで指定するSWIFTコードが必要で、かつ手数料は高い(送金に$30、着金に$15程度かかる)。*4
チャージバック詐欺
カード決済後、カードの盗難や紛失を主張して決済を取り消し、商品だけ受け取る詐欺行為の総称。意図的ではなく結果的に詐欺行為になることも多いのでFriendly Fraud(優しい詐欺)とも呼ばれる。詳細はコラム参照。