新型コロナウイルス(COVID-19)アメリカ全土への蔓延に伴って、食料品および日用品の配達アプリのビジネスが進展している。Techcrunchが報じるところによれば、InstacartやWalmart Grocery、Shiptなどのアプリダウンロード数が急速に伸びているという。Instacartの3月15日の段階での1日平均のダウンロード数は2月平均の218%に到達し、Walmart Groceryは160%、Shiptは124%の伸びであり、それぞれの実数は1日数万ダウンロード程度の規模感である*1。
Techcrunchが参照している調査データの一次ソースはアプリの統計データを提供するApptopiaのものであるが、同誌が言及するように、この統計にAmazon Freshという最大の大物は含まれていない。その理由は、物販はAmazonアプリにすべて統合されており、食料・日用品需要だけで切り分けることができないからのようである。
Instacartは食料品・日用品配送の先駆けであり、2019年全米日用品小売3位のKrogerと4位のCostcoの即日デリバリーを担当しており、かつてはWhole Foodsと戦略提携を結んでいた(Whole FoodsがAmazonに買収され、事実上消滅)。1位Walmartは自社サービスのWalmart Groceryを展開し、4位*2のTargetを担当するデリバリー企業がShiptである。そのInstacartは買い物代行スタッフ30万人増員を3月に発表*3。Amazonも10万人の増強を発表している*4。
ともあれ、この爆発はロックダウンなどの外出自粛令が背景にあるのは間違いないが、フードデリバリー、いわゆる出前アプリはまだ苦戦中である。双方ともに、ドアの前に置いていく”Leave at My Door”や、路肩に止めた配送車から直接受け取る”Curve-side Delivery”など「非接触」配送オプションを提供することで感染拡散リスクを防ぎ、安心の提供に腐心しているのだが、日用品デリバリーは伸びる一方、「出前」のフードデリバリーは伸びていない。先述のTechcrunchの記事では、フードデリバリーの割高感と衛生面への懸念がCOVID-19環境下では嫌気されているのでは、としている。つまり、Uber EatsやGrubHub、 Domino Pizzaまでも、むしろ苦戦中である。実際、アメリカに住んでいてピザやハンバーガーの出前を玄関前に放置しておけば、ネズミかホームレスの餌食になるリスクはかなり高い。まして、COVID-19の状況下で、他人との接触を避けたい消費者が食事の「出前」、ましてや「置き配」を嫌がるのは容易に想像がつく。
一方で、これまで多くの日用品デリバリービジネスが苦しんできた不在・再配達コストの問題が一気に解消されるかもしれない。ロッカーへの配送や玄関前の「置き配」が突如注目を浴び、むしろ提供価値に転化し始めている。
引用情報:
*1
Techcrunch(2020), Grocery delivery apps see record downloads amid coronavirus outbreak, retrieved from
https://techcrunch.com/2020/03/16/grocery-delivery-apps-see-record-downloads-amid-coronavirus-outbreak/
*3
Techable(2020), 米国の買い物代行サービスInstacartが買い物代行スタッフを30万人増員へ, retrieved from
https://techable.jp/archives/119956
*4
WSJ(2020), Amazon to Hire 100,000 Warehouse and Delivery Workers Amid Coronavirus Shutdowns, retrieved from
https://www.wsj.com/articles/amazon-to-hire-100-000-warehouse-and-delivery-workers-amid-coronavirus-shutdowns-11584387833
BusinessInsider(2020), UberEats also lacks a specific contactless option, though customers can message drivers with delivery requests., retrieved from
https://www.businessinsider.com/contactless-delivery-options-us-instacart-postmates-doordash-2020-3#ubereats-also-lacks-a-specific-contactless-option-though-customers-can-message-drivers-with-delivery-requests-5筆者注:
*2
日用品小売の全米ランキングについて
NRF集計による全米小売業売上ランキング2019でTargetは8位にランクされているが、日用品だけに限れば4位になる。
ちなみに、総合5位のWalgreensと7位のCVSはドラッグストア、6位のHome DepotはDIYホームセンターである。
NRF(2020), Top 100 Retailers 2019, retrieved from
https://nrf.com/resources/top-retailers/top-100-retailers/top-100-retailers-2019