中国大手通信デバイスメーカーのHuawei子会社のHiSiliconは、同国電気自動車大手BYDに新型チップを供給するとこの6月Equal Oceanが報道した。BYDが開発する電気自動車及びコネクティッドカーの中心となるスマートコックピットの制御基板として、HiSilicon社のKirin710Aが採用される見通しとなった。スマート・コックピットは2015年頃から提唱され始めた次世代自動車の制御システムの呼称で、運転者の認証や生体情報の取得、車外カメラのビジョン、センサー情報、駆動系やバッテリーなどを統合制御可能とするコンセプトであり、既に日本国内でも様々なコンセプトモデルがリリースされている。中国の電気自動車の中心的存在であるBYDはHuaweiの5G制御技術によってより先進的なスマートコックピットの実現に着手する。一方で、供給元のHuaweiは、米国を中心とした西側諸国からの締め出しと新型コロナによる技術供給の分断をにらみ、国内完結型のエコシステムに舵を切る。*1。
BYDといえば比亜迪汽車で知られる2003年設立の若い中国系自動車メーカーで、投資の神様と歌われるウォーレン・バフェットが投資したことでも話題になった。もともと、比亜迪股份というバッテリーメーカーの子会社であり、CEOの王伝福は、アリババのジャック・マーにならぶ中国随一の資産家でもある。2008年にBYD F3DMという名のプラグインハイブリッドカーをジュネーブ・モーターショーで発表し、2016年の段階で電気自動車の販売数世界一を獲得した。この6月、BYDはHuawei社のKirin710Aを、同社車両のデジタルコックピット用SoC(システムオンチップ)して採用することになった。
HuweiはかねてよりBYDを自社5G技術におけるエコシステムを構成する主要18社として認定している*2。
アメリカ市場を締め出された形のHuaweiおよび中国国内の半導体メーカーは、国内での提携強化に急いでいるが、本案件もこの流れの象徴的なニュースであろう。もともとバッテリーメーカーのBYDはパワーマネジメント周りは得意分野であり、中国が国策で推進する電気自動車開発の中心的存在となっている。通信分野での雄であるHuaweiとの提携は、まさに中国国内のリーダー同志が連結したシンボリックな出来事と言えよう。
本提携による新チップセット「Kirin」が投入されるモデルはまだ未定だが、Huaweiの5G活用技術を前提としたV2X(VEHICLE TO EVERYTHING)、すなわちオンライン接続を前提とした「車のIoT」の加速によって、「中国フル内製」のコネクティッド・ビークルが現実味を帯びている。
コロナ禍で国際物資調達の分断と部品調達戦略の再編成に注目が集まる中、最も多様な技術をパッケージすることになる次世代自動車ですら、中国は国内で全てを成立させる方向に進んでいる*3。コロナ禍の前から続くアメリカとの貿易対立だが、中国はアメリカ抜きでの生存戦略を着実に邁進している。
引用情報:
*1
EqualOcean(2020), Huawei Makes Chip Deal with BYD, Sources Say, retrieved from
https://equalocean.com/high-tech/20200615-huawei-makes-chip-deal-with-byd-expands-into-automotive-market
*2
EqualOcean(2020), Huawei Joins Hands with 18 Car Companies to Create a ‘5G Automotive Ecosystem, retrieved from
https://equalocean.com/auto/20200512-huawei-joins-hands-with-18-car-companies-to-create-a-5g-automotive-ecosystem
*3
EqualOcean(2020), BYD Launches New Blade Battery, Aims at Regaining EV and Power System Markets, retrieved from
https://equalocean.com/auto/20200512-byd-launches-new-blade-battery-aims-at-regaining-ev-and-power-system-markets