ウィズコロナのアメリカのデジタル広告事情

「コロナ禍は早く来たクリスマス」
こう表現するのはデジタルマーケティングの専門誌、Digidayの編集部が6月末に発表した記事である*1。
アメリカではこの春、大手ブランドを中心にデジタル広告の大幅な出稿減が見られた。同時に、BLM(Black Lives Matter)運動に余波で、ヘイトスピーチに適切な対応を行わないFacebookに批判が集中し、こちらもまた出稿が大幅に減額されている*2。

大手ブランドを中心としたデジタル広告出稿減額の理由はシンプルだ。先の読めない市況と売上の低迷から広告費を削らなければならなくなったのは自明の理である。少しでもキャッシュフロー悪化に伴う流血を止めたい企業は、広告を止める。そして、すぐに止めることが出来たのがデジタル出稿である。テレビ広告やスポンサードなどはクール単位での枠外や年間契約が主体である。コロナ禍において、短期的に出稿量を調整できるデジタル広告は極めて都合が良かった。筆者のアメリカ時代の友人(某アパレルブランドのマーケター)は語る。
「正直、広告費削減という点だけで言えば、BLMのムーブメントは都合が良かった。先の見えないコロナ禍中で、どのブランドも広告費は下げたい。でもやりすぎると、あそこはもうダメだとか言われてしまう。Facebookという大きな広告投下媒体から、評判を下げずに手を引けたのはラッキーだ。むしろ、広告費を削ることでニュースになり、評判が上がるというおまけ付きだ」
実際、各ブランドはBLMに関して極めてナーバスな姿勢をとっている。一種のヒステリアとなったアメリカでは、下手を打つことによる炎上リスクは日本の比ではない。結果、コロナとBLMで、大手ブランドはデジタル広告から一旦手を引いた。

これによって生じたのが、CPM単価(Cost Per Mille:広告1000回表示あたりの単価)の下落である。大手ブランドが出向しなくなったので入札価格が大きく下がった。この状況下を好機と見て、大幅に出稿量を増やしたのがD2Cブランドたちである。安い単価で広告露出を増やし、コンバージョンを上げるにはたしかに絶好の機会である。Digidayの記事によると、ウェルネスや化粧品などの主要D2Cはデジタル広告の投下量を2倍以上に増やし、大きなゲインを獲得したという。このことを「まるでホリデーシーズン」すなわちクリスマス期の広告投下のようだ、と言っているのだ*3。

一方の大手ブランドの広告予算はどこに行ったのか?
Digidayの別の記事によれば、大手アドネットワークのGroupMなどは、マイノリティコミュニティ向けパブリッシャーにリーチできるプログラマティック・マーケットプレイスを構築し、各クライアントとプライべート取引ができる環境を作った。AT&Tは黒人向けポッドキャストを主力媒体の一つとすべく動いている*4。デジタル広告のプログラマティック化は、コンバージョンを生みやすい出稿先を自動入札し、より複雑な媒体管理をリアルタイムで実行可能にしたが、そこに、「出稿先メディアが人種差別に加担していないか」という判断基準の変数は存在しなかった。また、誰もが知るような国民的ブランドは、コロナ禍とBLMを期に、市民と寄り添い、共に危機に立ち向かう姿勢を表明することが重要になった。

コロナ禍で市場が低迷する中、本心は少しでもモノを買ってほしい。しかし「買ってくれ」という広告を打てばコロナ・ヒステリアの中では「守銭奴」のレッテルを貼られてしまう。また、その広告が人種差別に加担する(と認識される)メディアに掲載されれば、「レイシスト」のレッテルを貼られてしまう。CPMが下がった広告市場は、体力が乏しいD2Cにとってはクリスマスセールのようなものだったかもしれない。しかし彼らも、いずれ大手と同じ制約を課されてしまうだろう。少なくとも、消費市場自体は回復しておらず、混乱する広告市場の中、強烈な市場のパイの取り合いが続くことになる。

*1,*3 DigiDay(2020), ‘Christmas came early’: For some direct-to-consumer brands spending more on ads during Q2 proved opportune, retrieved from https://digiday.com/marketing/christmas-came-early-for-some-direct-to-consumer-brands-spending-more-on-ads-during-q2-proved-opportune/

*2,*4 DidiDay(2020), With the Facebook ad boycott, the push for inclusivity arrives in ad buying, retrieved from

With the Facebook ad boycott, the push for inclusivity arrives in ad buying

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