あなたは、ディズニーのMagic Bandを知っているだろうか? アメリカなどのディズニーワールドで使われるプラスティック製の腕輪で、RFIDが内蔵されている。来場者はこのバンドをつけていれば全ての乗り物搭乗やショップでの決済、宿泊ホテルのルームキーなどの機能が集約され、ディズニーワールド内の全ての体験をMagic Band一つで制御することができる。
Magic Bandは2013年にリリースされているが、その構想プロジェクトであるMyMagic+*1は2008年から始動している。すなわち、ディズニーワールド内のゲストから、彼らがストレスと感じうる料金決済やアトラクションでの待ち時間、買い物荷物をぶら下げて歩く煩わしさを完全に取り除くためにRFIDを利用した通信を用いるという試みであり、Nike iDなどから大きなヒントを得ているという。
このMagic Bandは、ディズニー公式ホテルに宿泊すれば無料で手に入れることができ、現地で$12.95で購入可能。バンドの色などカスタマイズも可能である。まず、チケットを購入したらMy Disney Experience というサイト(もしくはアプリ)*2 でアカウントを紐付け、様々な予約をここから行えば、その後はMagic Band一つで様々な行為が簡略化される。例えば Fast Pass+と呼ばれるアトラクション予約機能をつかって、1日に3つまでの搭乗予約が可能になる。長蛇の列に並ばずとも、タッチアンドゴーで人気アトラクションに乗れ、レストランも予約可能。グッズの買い物決済はもちろん、公式ホテルに止まっていれば、買ったグッズは部屋に届けられる。ゲストは手ぶらでスムーズにディズニーワールドを満喫できるのだ。現在はMagic Band2にバージョンアップし、よりおしゃれなデザインとカスタマイズ性を有している。
詳細な体験情報はTABI LABOが紹介している特集記事*3をお読みいただくとして、このMagic Bandの素晴らしさは、まさにテーマパーク体験にDX をもたらしているということであろう。マーケティングやUXでよく言われることに、ペイン(苦痛)とゲイン(利得)というものがある。すべてのユーザーはゲインという利得を得るためにペインという苦痛を対価として支払う。ディズニーワールドに行って娯楽を得るためにお金を払い、アトラクションを楽しむために、長距離を移動し、長い行列待ちに耐える、という対価を支払う。MyMagic+はこのペインを最小化するための試みであり、Magic Bandはこれを実現するための技術なのである。結果として、ゲストはテーマパークにつきものだった混雑や行列待ち、荷物を抱えての移動といったペインは最小化され、純粋にエンターテインメントだけを享受できるようになる。ホストであるディズニーは、「非日常の夢の国体験」という根源的な価値提供はそのままに、ストレスフリーという付加価値を載せ、疲弊によって損なわれていたゲストの行動リソースを、消費行動として喚起することができる。
このDXはある意味典型的なAmazon型であり、Amazonが1クリックやリコメンドを導入したように、ゲイン入手のためのペインを徹底的に潰すやりかたである。昨今、DXがあたかも最近の技術トレンドのように語られているが、先行企業は以前から行っているのだ。今となっては、RFIDの技術自体は枯れた技術ですらあり、目新しいものではないのだが、DXとは技術そのもののことではない、ということを如実に語る好例である。
ちなみに2016年にはライバルのUniversal Studio OrlandがTapuTapuと呼ばれるMagic Banに 酷似したサービスを開始した。Magic Bandは東京ディズニーランドでは未だに導入されておらず、TapuTapuも大阪のユニバーサル・スタジオでは未実装である。
引用情報:
*1
Wikipedia(2008), MyMagic+, retrieved from
https://en.wikipedia.org/wiki/MyMagic%2B
*2
Walt Disney(2020), Magic at Your Fingertips, retrieved from
https://disneyworld.disney.go.com/plan/my-disney-experience/mobile-apps/
*3
TABI LABO(2019), 待ち時間が240分も短縮。夢の国の「マジックバンド」がスゴい!, retrievd from
https://tabi-labo.com/292406/disney-magic-band
参考情報:
The Team Tririon(2020), マジックバンドが進化した!【マジックバンド2】とは? retrieved from
https://the-team-triton.com/magicband-2-debut-at-wdw/
Wikipedia(2013), Magic Bands, retrieved from
https://en.wikipedia.org/wiki/MagicBands