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造形のデジタルトランスフォーメーションとなるか? 3Dプリンター海外トレンド5選

作成者: DXNavigator 編集者|Feb 3, 2021 4:30:29 PM

「Additive Manufacturing 2.0」という言葉を聞いたことがあるだろうか?Additive Manufacturingの日本語訳は「付加製造」といい、「デジタル上で成型したモデルを薄くスライスした断面の情報を計算し、その形状や材料を積み重ね、物質として造形する技術」、簡単に言うと3Dプリンター技術のことだ。

3Dプリンター技術自体は1980年代からあったが、高価な上にプリントするには特別なスキルが必要で、大きな企業や事務所など導入先が限られていた。2000年代半ば以降、オープンソースによる開発が進み、精巧さ、素材の選択肢の増幅、プリントスピードの高速化、小型化及び大型化などの目覚ましい進化を遂げ、3Dプリンターで造形した物が試作品ではなく、実際の商品や実際の部品として使用できるほど高品質のものが造作可能になってきた。そして家庭用機種や、AIやビッグデータの技術を結びつけた新たなビジネスモデルも登場していく。この流れを「Additive Manufacturing 2.0」と呼び、「次世代の付加製造」と定義している。

近頃日本国内でも3Dプリンターで作成した食品のレストランや、マスクの生産など、BtoCのサービスの話もよく耳にするようになった。
今回は大型の資金調達や新しい分野で挑戦を続ける3Dプリンター業界のトレンドを紹介する。

高速の金属3Dプリント技術で次世代のビジネス革新を狙うDesktop Metal

2017年に金属部品を作成する3Dプリンターを市販化したDesktop Metalの勢いが止まらない。
マサチューセッツに拠点を置く同社は、2015年の創業以来継続的に投資を獲得し、その額は4億3000万ドル(約460億円)にも及ぶ 。8月26日、SPAC(特別目的買収会社)のTrine Acquisitionと合併し、ティッカーシンボル「DM」でニューヨーク証券取引所に上場する意思を表明 *1、9月16日に公開された投資状況も好調で *2、12月10日晴れてIPOを公開し取引を開始した *3。同社の推定株価は最大で25億ドル(約2663億円)になる予定 *4。
従来の100倍の速度で製造を可能にすることを謳っている同社の金属3Dプリンターは、試作品だけではなく最終製品を大量生産することを可能にし、さらに今後の付加製造業界をAdditive Manufacturing 2.0としてリードしていく企業になっていくという。同業界は10年間で120億ドルから1,460億ドルに成長を見込んでいる*5。

 


https://www.youtube.com/watch?v=WRBdHEAQf3M

 

ArevoのCFRP(炭素繊維強化プラスチック)3Dプリント技術を使用した自転車

2013年にシリコンバレーに設立されたArevoは炭素繊維や熱可塑性ポリマーなどを複合したCFRP(炭素繊維強化プラスチック)を用いた3Dプリンター技術を提供するベンチャー企業である。
2020年の夏には自転車業界に自社ブランドのSuperstrata名義で参入、3Dプリンターによって製造される電動アシスト自転車Ionと、非電動自転車Terraの予約受付にクラウドファンディングを活用したニュースは記憶に新しい*6。(このチャレンジも、開始後3分には10万ドル(約1000万円)の目標を達成し、2020年12月の時点で、720万ドル(約7億5千万円)以上のファンドを獲得している)

この自転車は同じモデルから乗る人に合わせたサイズの出力が可能、接着剤や細かなジョイントパーツがいらないことで美しいフォルムを担保しながら強度も十分。さらに軽量の1.3kgで低価格(電動自転車:4000ドル(約43万円))である。これが低価格なのか?と思えるかもしれないが、本来同じようなCFRP製の自転車は1万2000ドル(約130万円)以上もするのだ。

 

 

8月11日、同社は大型炭素繊維複合構造用の最新かつ世界初のシステムであるAqua2の導入とシリーズBの6000万ドルの資金調達を発表した*7。Aqua2は前モデルの4倍の速さで印刷するため、より大量に低コストで商品の生産が可能になる。

Relativity Spaceによる3Dプリントロケット

Relativity Stargate Metal 3D Printer

NASA(航空宇宙局)のTipping Pointプロジェクトにおいて、すでにアメリカ合衆国と契約を交わしている航空機メーカーのロッキードが、3Dプリンターで作成したRelativity Spaceのロケットフィットを採用することに決めた。Relativity Spaceは3Dプリンターを活用した宇宙スタートアップでは初めて政府との正式な契約を締結することとなった。2021年中には打ち上げの予定 *8。

同社は3Dプリンター、人工知能、自律型ロボットなど次世代のテクノロジーを取り込んで、ロケット製造・飛行方法の革命を行っている。さらに、未来のビジョンには「火星上に産業基盤を置く」を打ち出している *9。2020年に巨大な製造工場が完成し、世界で最大と言われている第3世代Stargate金属3Dプリンターの稼働を開始した。

さらに、11月23日シリーズDラウンドで5億ドル(約523億円)を調達したと発表し*10、2021年はさらなる爆進が予想される 。
3Dプリントの持続可能な素材溶解のパートナーには、太陽の表面と同温度の超高温マイクロプラズマで金属を溶解するUniMeltの開発企業である6Kをパートナーに選んだ *11。

 

オランダの研究所で進む、血管を泳ぐ世界最小のボート

宇宙規模の巨大3Dプリンターが実稼働に成功して好調の中、ミクロの世界でも3Dプリンターが活躍しているニュースもある。
CNNの報道によると、オランダのライデン大学の研究者が、船首から船尾までが30ミクロン(1ミクロン=1ミリの千分の1)のボートを電子顕微鏡と3Dプリンターを駆使して作成したという。物理学者レイチェル・ドハティ、ダニエラ・クラフトらによるもの。彼らはマイクロスイマーという水の中を自走する微粒子(バクテリアや精子)を研究しており、その微粒子の特性を活かして、動く方向と角度を調整。これを3Dプリントして合成することで、スクリューがなくても自己推進型で動くようになっているそうだ。合成のマイクロスイマーは過去にも作られてきたが、3Dプリンターを使うことで精巧な形を作ることが可能になった。舟形のほかにらせん型や球体、宇宙船型などもある。血管の中に泳がせて薬を運ぶなど、合成マイクロスイマーだからこそ意図的な動きを持たせることが可能になり、さまざまな活用が期待される*12。

画像引用元: https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2020/sm/d0sm01320j#!divAbstract

 

コロナ禍で医療器具3Dプリント製品を次々と作り出すFormlabs


Photo by Creative-Tools.com 3D Printshow 2014 London

以前3Dプリンターで医療用のメガネを作成するFitzを紹介したが、

 

マサチューセッツ州を拠点にドイツ、日本、中国、シンガポール、ハンガリー、ノースカロライナにオフィスを構える3Dプリンターと3Dプリンティング事業のユニコーン、Formlabsの動きをウォッチしよう。Formlabsは2011年にMIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボの学生3名が設立した。初代3DプリンターForm1開発製造に向けたクラウドファンディングで300万ドル近くを調達したことが話題になった。

光照射によりレジン樹脂を硬化させることでモデルを形成する。彼らのデスクトップサイズの業務用3Dプリンターは、同じ素材を使った従来の3Dプリンターに比べて安価で、その後の開発生産も順調。2018年には調達総額は1億ドルを超え、名実ともにユニコーン入りとなった*13。そんな彼らはコロナ禍における医療用器具の生産を積極的に行い、綿棒や人工呼吸用のプラグ、マスクシールドや、シュノーケルマスクなどを生産 。同社サイトでは医療関係者の協力を得て実際に実証実験をした結果やテスト状況を公開している *14。
また、歯科医療にも力を入れていて、人工装具や歯列矯正器具も制作でき、口内に整合する素材の3DプリンターのForm 3LBを発表 *15。

以前歯科助手をしていた筆者にとって、プルプルに硬化する型取り材(意外に作るのにコツがいる)を練るところから、歯形を制作して石膏型を作り、業者に送って、歯科技工士による芸術とも言える義歯やクラウンが送られてくる、という造作の流れがどのように変化していくのか行方が気になるところである。
2021年にはUV硬化インクジェット方式で従来の2倍精細な色味を出すことができる3Dプリンターを発売することになっている。これによって、精巧な3Dフィギュアなどの鮮やかな発色が可能となる *16。

 

引用情報:
*1
Techcrunch(2020), Desktop Metal going public in SPAC-led deal that could value 3D printer company at $2.5B, retrieved from
https://techcrunch.com/2020/08/26/desktop-metal-going-public-in-spac-led-deal-that-could-value-3d-printer-company-at-2-5b/
*2
Techcrunch(2020), kleiner prints gold with desktop metal netting a roughly 10x return, retrieved from
https://techcrunch.com/2020/09/15/kleiner-prints-gold-with-desktop-metal-netting-a-roughly-10x-return/
*3*5
Desktopmetal(2020), PRESS RELEASE: Desktop Metal Becomes The World's Only Publicly Traded Pure-Play Additive Manufacturing 2.0 Company, retrieved from
https://www.desktopmetal.com/press/press-release-desktop-metal-becomes-the-worlds-only-publicly-traded-pure-play-additive-manufacturing-2.0-company-1-2
*4
Desktopmetal(2020), PRESS RELEASE: Desktop Metal to Become Public, Creating the Only Listed Pure-Play Additive Manufacturing 2.0 Company, retrieved from
https://www.desktopmetal.com/press/desktop-metal-to-become-public-creating-the-only-listed-pure-play-additive-manufacturing-2.0-company-1-1-1
*6
Techcrunch(2020), Superstrata opens pre-orders on a pair of 3D-printed bicycles, retrieved from
https://techcrunch.com/2020/07/13/superstrata-opens-pre-orders-on-a-pair-of-3d-printed-bicycles/
*7
PR News Wire(2020), Arevo Introduces Aqua 2 System, Raises $25m Series B, retrieved from
https://www.prnewswire.com/news-releases/arevo-introduces-aqua-2-system-raises-25m-series-b-301108918.html
*8
Techcrunch(2020), Lockheed picks Relativity’s 3D-printed rocket for experimental NASA mission, retrieved from
https://techcrunch.com/2020/10/19/lockheed-picks-relativitys-3d-printed-rocket-for-experimental-nasa-mission/
*9
Relativity Space(2020),OUR VISION, retrieved from
https://www.relativityspace.com/mission
*10
Techcrunch(2020), Relativity Space raises $500 million as it sets sights on the industrialization of Mars, retrieved from
https://techcrunch.com/2020/11/23/relativity-space-raises-500-million-as-its-sets-sights-on-the-industrialization-of-mars/
*11
3dprint.com(2020), 6K Partners with Relativity Space, Commissions UniMelt to Transform Sustainability in Metal 3D Printing, retrieved from
https://3dprint.com/269751/6k-partners-with-relativity-space-commissions-unimelt-to-transform-sustainability-in-metal-3d-printing/
*13
Techcrunch(2020), Formlabs goes unicorn with latest funding round, retrieved from
https://techcrunch.com/2018/08/01/formlabs-goes-unicorn-with-latest-funding-round/
*14
Terchcrunch(2020), Formlabs gets FDA emergency use authorization for a 3D-printed ventilator conversion part, retrieved from
https://techcrunch.com/2020/05/04/formlabs-gets-fda-emergency-use-authorization-for-a-3d-printed-ventilator-conversion-part/
*15
Formlabs(2020), 3D Printing to Support COVID-19 Response Efforts, retrieved from
https://formlabs.com/covid-19-response/
*16
Techcrunch(2020), Formlabs announces a large-format medical and dental 3D printer, retrieved from
https://techcrunch.com/2020/09/15/formlabs-announces-a-large-format-medical-and-dental-3d-printer/
*17
Techcrunch(2020), フルカラー造形が可能なUV硬化インクジェット方式3Dプリンターが税別348万円で2021年1月発売, retrieved from
https://jp.techcrunch.com/2020/11/06/mimaki-3duj-2207/,2022.04.15
参考情報:
*12
CNN(2020), 3Dプリンターで「世界最小のボート」を作成 蘭研究者, retrieved from
https://www.cnn.co.jp/tech/35161659.html
Leiden University(2020), 3D printed microboat, retrieved from
https://www.universiteitleiden.nl/en/news/2020/10/3d-printed-microboat
Doherty, R. P., Varkevisser, T., Teunisse, M., Hoecht, J., Ketzetzi, S., Ouhajji, S., & Kraft, D. J. (2020). Catalytically propelled 3D printed colloidal microswimmers. Soft Matter, 16(46),

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