この2月、小売大手WalmartがアドテクのThunderを買収したと、複数のメディアが報じた。この買収は、Walmartの広告部門、Walmart Media Groupが年初にWalmart Connectに名称を変えてから初めての試みである。
Thunderは2007年に設立されたアドテク企業で、以前はPaperGという名称だった。DSPなどの広告買付機能を有するクラウド型のプラットフォームであるが、その特徴は、広告クリエイティブの自動最適化やABテスト、効果測定などをほぼ自動的に行えることである。ブランドや広告代理店は1つのクリエイティブを作るだけで、Thunder Platformがレイアウトや色のバリエーションを自動生成し、効果の高い広告の露出に寄せていく事ができる。また、天気やロケーションといった環境属性にも対応し、雨の日に傘をオファーしたり、ロサンゼルスとシカゴでは違うタイトルで違うデザインと訴求商品を自動生成することができ、もちろん顧客の行動履歴にも対応する。
このようなマイクロ・オプティマイゼーション(精密最適化)は一部のトレーディングデスクや強力な広告代理店の職人技(といってもAIなどのツールを使いこなしているわけだが)として機能していたが、Thunderはこの領域を自動化する。
Wall Street Journal(WSJ)が同買収に関する記事で述べるとおり、
「この中小企業の広告予算という巨大なスライス(ピザの一切れ=全体の一部分)を狙っている」
というのは確かに真実であろう*1。WalmartおよびWalmart.comに商品を供給するのは大手ばかりではない。名前も知らないメーカーや卸売業者がWalmartに陳列棚を確保することに多大なる労力を割いている。月1000ドルの広告しか打てない企業にとって、先述のデジタル職人のようなプロフェッショナルを雇うことは不可能に近いし、社内でそんな人材を育成するすべもない。WalmartはThunderを自らのプラットフォームの標準機能とすることで、この巨大なロングテール広告市場を、Amazonとは違った形で獲得に向かっている。
クレジット:Walmart
しかし、それだけではないだろう。WSJはまた、Walmartが、米国最大規模のDSP企業、Trade Deskと戦略提携したことについても報じている。現在、最も広告在庫を売っている企業はGoogleであり、二番手がFacebook、そして三番手がAmazonである。そして、Walmartは広告売上の詳細を明かしていないが、少なくとも接触者数では4番手の座を手に入れているという*2。現在、リアル小売2番手のKrogerや都市部に強いTargetもまた、店舗広告や自社eコマース広告の販売に力を入れている。彼らの最大の訴求ポイントは、「実際に売上に直結する広告」であることだ。Walmartに代表される大型チェーンストアは皆、ロイヤリティプログラムで会員の情報を確保し、これに購買履歴を紐づける仕組みを長年運用している。そしてこの顧客IDがとうとうデジタル行動と結びつきはじめた。レジで商品を買ったり、アプリで配送注文した人たちは、一体どんな広告を「浴びて」いたのか、が測定可能になり始めているのである。その「本当に売れる広告」を提供する筆頭格はこれまでAmazonだったわけだが、数年後、それはWalmartになっているかもしれない。
[参考情報]Thuder(2021)
[引用情報]
https://www.makethunder.com/
the Trade Desk(2021)
https://www.thetradedesk.com/*1
WSJ(2021), Walmart Buys Ad Tech to Chase Small-Business Advertisers, retrieved from
https://www.wsj.com/articles/walmart-buys-ad-tech-to-chase-small-business-advertisers-11612438200
*2
Seeking Alpha(2019), Walmart: Untapped Opportunity In Digital Advertising, retrieved from
https://seekingalpha.com/article/4285786-walmart-untapped-opportunity-in-digital-advertising