躍進が続くインドネシア経済において、キャッシュレス事情をけん引しているのはライドシェアのGojek、そしてもう一つがLinkAjaであろう。
LinkAjaの設立は2019年と若いが、その前身は同国最大のテレコム会社、Telkomselが提供していたT-cashである。いわゆるeウォレットで、日本でいうとドコモのd払いのようなイメージである。また、LinkAjaの大株主はTelkomsel、取扱高1位の同国最大銀行であるBank Rakyat Indonesiaの投資会社BRI Ventures、同2位のBank Mandiriなど10社の国有企業からなり、ほぼ国営eウォレットといっていい。
この企業に、ASEANを代表するデカコーンのGojekとGrabが出資した。
既に自社が提供するスーパーアプリ内で決済機能を提供する2社が、最大のライバルでもあるLinkAjaに出資する意味は大きい。
LinkAjaはこれまでに約1億ドルを調達しているが、最初の調達であるシリーズAは先述のBRI Ventures、2020年11月のシリーズBはGojekとGrabが共同でリードインベスターを取る形で行われ*1、この2021年3月にGojekが単独追加出資を発表している*2。
LinkAja最大の優位点は、公共料金の支払いが可能なことである。交通料金や水道、ガス、各種地方自治体の請求を受け付けることができるわけだが、この背景からか、LinkAjaのアクティブユーザーの80%はジャカルタなど主要都市以外の第2・第3階層都市と呼ばれる地域在住者に支えられている*3。GojekやGrabのベースはタクシー配車などの都市型アプリなので、LinkAjaとの提携は相互補完になるということかもしれない。
また、もう一つの背景として中国勢の決済アプリ進出がある。現在のインドネシアにおいて、アクティブユーザー上位はGojekのGoPay、GrabのGrabPay、Ovo（Grabと資本提携）、そしてLinkAjaにけん引されているが、これに食い込む形のDanaは、創業者が元Alipayのカントリーマネージャーであり、Alipayの技術を採用しているという。また、現在存在感を増しているのがテンセント系のShopee Payであり、インドネシア最大のコンビ二であるアルファマートの全店舗、約14000カ所での利用が可能になったという*4。
もともと、東南アジアでは華僑勢によるビジネスが躍進を遂げているが、中国本土からの後押しを受けた企業が、ASEAN全体に力強く進出している。今回のGrab、GojekのLinkAjaへの出資は、官民オールASEANで中国パワーに対抗する姿勢が可視化されたもの、と見ることもできるだろう。
ともあれ、現在インドネシアでは30を超える決済アプリがしのぎを削っており、キャッシュレスは猛烈な加速を見せている。
引用情報：
*1
TechInAsia(2020), Grab leads series B round of up to $100m in Indonesian fintech LinkAja, retrieved from
https://www.techinasia.com/grab-leads-seriesb-round-100m-indonesias-fintech-linkaja
*2
DealStreetAsia(2021), After Grab, Indonesia’s Gojek invests in e-wallet LinkAja’s Series B round, retrieved from
https://www.dealstreetasia.com/stories/gojek-linkaja-in-series-b-round-231030/
*3
TechInAsia(2021), How LinkAja can help Grab and Gojek fend off ShopeePay, retrieved from
https://www.techinasia.com/linkaja-grab-gojek-fend-shopeepay
*4
AXION(2020), ShopeePay ”東南アジアのアリペイ”のデジタルウォレット”, retrieved from
https://www.axion.zone/shopeepay/参考情報：
TechInAsia(2019), Indonesia’s e-wallet race is heating up. Here are the main players, retrieved from
https://www.techinasia.com/indonesias-ewallet-race-heating-main-players