先日当メディアでも紹介したニューヨーク市の電動キックスクーターシェアリング事情の続編をお送りする。
https://dx-navigator.com/2021/04/28/ny-kickscooter-dx-b-2-g-sharing/
電動キックスクーターシェアリング事業はすでに各都市での運用プログラムが始まっており、多くの都市で運営業者はすでに決まっている。主要市場として残されていたのがロンドン市とニューヨーク市の2都市だった。その一つ、ニューヨーク市市議会電動キックスクーターシェアリング事業の試験運用に関する情報提供依頼書(RFI)及び、電動キックスクーターサービスを提供する業界に対し関心表明依頼書(RFEI)が2020年11月に公布され*1、本格的な採用競争がスタートすることになったことについては、前回までに述べた。
そして、2021年の4月14日、同市試用運転プログラムに参入する3つの電動キックスクーター企業が発表になった。
Lime(ライム)、Bird(バード)、Veo(ヴェオ)である。
Limeはすでにパリ市での営業許可とシカゴの試用運転プログラムの許可を勝ち取り、米国、ヨーロッパ、中東、オーストラリアの約130の都市世界中にシェアを広げている電動キックスクーター業界の王者。そのライバルであるBirdは電動キックスクーター業界のパイオニアと言える存在。こちらもシカゴの試用運転プログラムの許可を得ており、米国、ヨーロッパ、中東の100以上の都市にシェアを広げている。シカゴを拠点とするVeoは現在米国内20都市に進出中。今回ニューヨーク市での事業展開のチャンスを手に入れたことで今後の大きな躍進の可能性が広がった。
Birdは電動キックスクーターシェアリング業界のパイオニアであり、強豪企業の一つだが、今回のニューヨーク市での試用運転プログラムに【再起】をかけていることだろう。
同社は2017年9月に、LyftとUberの元幹部であったTravis VanderZanden氏によって設立された。同月、カリフォルニア州サンタモニカでアプリを使用した電動キックスクーターシェアリングを世界で初めて開始。2018年には米国内外の市場で急速に拡大した。
ユーザはBirdアプリをインストールすることで、近隣で利用可能なスクーター(GPSで追跡)を確認することができ、支払い情報入力後、電動キックスクーター本体に付いたQRコードをスキャンすることでシェアリングが利用開始となる。終了するには駐車中のスクーターの写真を撮って終了報告を行うという仕組みだ*2。
Dockless electric scooter sharing system(ドックレスシェア)と呼ばれる、決まった駐輪場(ドック)を指定しない乗り捨て型のシステムを採用したことで、街中に乗り捨てられた同社の電動キックスクーターが問題になっているが、今回のニューヨークの試用運転プログラムではその対策もされていくことになるだろう。
アプリ内の地図上には、ユーザーが駐車を禁止されているさまざまなレッドゾーンが指定されており、範囲外への駐車や不正行為をした場合罰金が科せられるようになっている。
同社はさまざまな都市を周り、地元当局の協力のもと課題解決に向けて挑戦を続けてきたという。
2017年から2020年までにScoot NetworksやCircなど電動キックスクーターの競合買収を実施、 2019年10月、2億7500万ドルを調達し、評価額28億ドルに到達。順風満帆と見られていたが、コロナ禍で他の運輸企業と同様に乗客数が大幅減少、2020年3月には、CEOのTravis VanderZandenから従業員の約40%となる約1060人の解雇が発表されるなど苦行を強いられることとなった。消費者行動データ分析のSecondMeasureのデータによると、2021年最初の3か月間の米国での売上高は、2019年最初の3カ月のパフォーマンスを引き続き下回っている*3。
一方で、LimeはUberと緊密な関係を築き「2億回以上の乗車」と「Birdの2倍以上の乗車を達成している」と述べており、Birdは他の電動キックスクーターシェアリングのスタートアップとの激しい競争にも直面している。
そんな中、同社は、2021年夏には特別買収会社であるSwitchback II Corporationと合併すると発表、合併後は事業と成長に資金を投入するために最大4億2800万ドルの現金を追加する予定だ。
ニューヨーク市の電動キックスクーターシェアリングの試用運転プログラムに話を戻そう。
DOTの(ニューヨーク市運輸局)発表によると、パイロット・プログラムが行われるのは東ブロンクス地区となる。そして、Lime、Bird、Veoの3社から、5ドル未満で電動キックスクーターをシェアリングできるプランとモデルが発表された。
Lime:ロックを解除するには1ドル、1分あたり0.30ドル
Bird:ロックを解除するには1ドル、1分あたり0.39ドル
Veo:ロック解除に1ドル、1分あたり0.39ドル
画像引用:https://www1.nyc.gov/html/dot/html/pr2021/pr21-015.shtml
現在はローカルコミュニティとのエンゲージメントを高めるフェーズにあり、DOT(ニューヨーク市運輸局)と3社は地域コミュニティと協力し、専用駐輪場の設置場所開拓や、電動スクーターの安全性・公平性・アクセシビリティに関する教育・啓蒙を進めているという。今夏中に対象地域の各ストリートに専用ドックが随時配置される予定で、新型の自転車専用レーンも開発中であることが発表された*4。
ちなみに、担保されるべき安全性とアクセシビリティの機能には次のものが発表されている。
・新規ユーザーのためにアプリ内での安全性テストの実施を行う
・新規利用から30分間の走行は10mphに制限され、暗闇や夜間には乗車できない「初心者モード」となる
・希望者向け対面レッスン(ソーシャルディスタンスは配慮)
・ライダーの説明責任ポリシー(未成年者の乗車を防ぐため)
・着席スクーターや車椅子アタッチメントなどのアクセシブルな車両オプション
・アクセシビリティの課題について、DOT、MOPD(ニューヨーク市障害者事務所)、および障害者グループと定期的に会合
初夏までに、試用運転プログラムの最大3000台の実走行がフェーズ1エリアで行われると見込まれている。2022年からはフェーズ2がスタートし、南ブロンクス地区で最大6,000台のスクーターが追加配備される予定である。
今後、DOTは駐車場の囲いやリアルタイムの電動キックスクーターのデータを使用して駐車場のコンプライアンスを確保し、歩道の乱雑さを管理するためのさまざまな戦略をテストできるようになっていくと期待されている。地域コミュニティとのコミュニケーションに合わせ、デジタルデータや最新技術を活用したどのような新しい価値が生まれていくか楽しみである。
参考記事:
techcrunch(2021),Bird Lime and Veoride elected for NYC e-scooter pilot, retrieved from
https://techcrunch.com/2021/04/14/bird-lime-and-veoride-selected-for-nyc-e-scooter-pilot/
Wikipedia(2021),Bird (transportation company),retrieved from
https://en.wikipedia.org/wiki/Bird_(transportation_company)
cnnBusiness(2021),Bird pioneered scooter sharing. Now it's going public, retrieved from
https://edition.cnn.com/2021/05/12/tech/bird-spac/index.html引用記事:
*1
Techcrunch(2020), The scooter battle for New York City is on
Bird, Lime, Spin and Voi are just a few of the players vying for a permit, retrieved from
https://techcrunch.com/2020/10/30/the-scooter-battle-for-new-york-city-is-on/,2021.06.10
*2
Wikipedia(2021),Bird (transportation company),retrieved from
https://en.wikipedia.org/wiki/Bird_(transportation_company)
*3
cnnBusiness(2021),Bird pioneered scooter sharing. Now it's going public ,retrieved from
https://edition.cnn.com/2021/05/12/tech/bird-spac/index.html
*4
City of New York(2021), DOT Announces Three Companies Selected for E-Scooter Pilot in the East Bronx, Along with Major New Bike Network Projects, retrieved from
https://www1.nyc.gov/html/dot/html/pr2021/pr21-015.shtml