かねてより自社ECの拡充と外部開放を進めてきたWalmart(ウォルマート)であるが、この7月28日にAdobe(アドビ)との提携が発表され、Techcrunchなどの各メディアがビッグニュースとして報じた。
つまり、両者は戦略パートナーシップを締結、Adobeが提供するECプラットフォームである Adobe Commerce PlatformとWalmartのマーケットプレイスが統合される。これにより、Adobeのプラットフォーム経由でWalmart.comの販路と配送手段にアクセスできる。同時に、Walmartへ出店する中小企業を含めたリテーラーやメーカーが、ハイエンドなAdobeのマーケティング機能にアクセスできるということになる。
AdobeはEC側のプレイヤーとしては比較的後発に位置する。もともとクリエイティブ向けのソフトウェア群で圧倒的なシェアを獲得してきたが、現在の事業セグメントはこれを含めて3つ存在する。すなわち、Photoshopに代表されるAdobe CSの販売を軸とするCreative Cloud、Adobe PDFや電子署名のDocument Cloud、そして、Adobe Analyticsなどの包括的なデジタルマーケティング・プラットフォームを提供するExperience Cloudである。今でも稼ぎ頭はCreative Cloud事業だが、買収戦略で着々と売上構成比を上げているのがExperience Cloud事業だ。SaaS型アクセス解析プラットフォームの最大手だったOmnitureを買収したのが2009年。ここから一気にクラウドビジネスに転換し、2016年に買収した動画広告企業のTubeMougulのサービスをベースとしたAdobe Advertisingを買収翌年にリリース。2018年にはマーケティング・オートメーション大手のMarketo、そしてECプラットフォームのMagentoを立て続けに買収して、Experience Cloudは同社最大の成長セグメントとなり、Adobeの事業の半分はデジタルマーケティングのためのクラウドサービス事業となった。Walmartは、この領域と提携する。
Walmartのマーケットプレイスは、Walmart.com上で各メーカーの直営販売を可能にするサービスであり、要はAmazonと同じことをWalmart.comで可能にしている。ECの巨人とリテール王の大きな違いは、米国内約5000店舗の商品受取兼配送拠点の存在である。Walmartマーケットプレイスの収益モデルはマーケットプレイス内での決済および配送・ピックアプの手数料、そして広告である。DX NavigatorでもWalmartのビジネスモデル変革については何度か伝えてきたが、この業務提携最大のポイントは、Walmartが広告収益というポートフォリオを形成するための重要な一手となろう。
Walmartはこれまで、独自開発や単機能型のスタートアップ買収でマーケットプレイスの機能強化を続けてきた。マーケットプレイスに出品したいメーカーやリテーラーはWalmartの専用サイトからアクセスし、在庫反映から広告掲載まで様々な管理機能を使うことができる。DSPの大手、TradeDeskとの提携によって、外部の広告ネットワークの買付けも可能となり、さらには、Walmart店舗内の各種サイネージ広告も買付けが可能になると言われている。これだけのシステムを自社で開発・管理運営することは莫大な開発力とコストが必要になる。もともとリテーラーであるWalmartが得意とすることではない。この機能強化部分をAdobeが担うことになれば、Walmartは財務的にもリソース配分的にもずいぶん楽になるだろう。
参考情報:
Techcrunch(2021), Walmart to sell its e-commerce technologies to other retailers, retrieved from https://techcrunch.com/2021/07/28/walmart-to-sell-its-e-commerce-technologies-to-other-retailers/
Adobe(2021), 最高の顧客体験を届けるために, retrieved from https://business.adobe.com/jp/
Jetro(2021), 米ウォルマート、自社のEC技術を小売企業に販売, retrieved from https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/08/a0d032967086df17.html