筆者を含めほとんどの人達は、病院以外で尿検査などしないだろう。もうすこし正確に言えば、健康診断か、具合が悪くなって受診しない限り、自分の排泄物から自分の状況を知ろうなどとは思わない。
2015年に創業したBisu, Inc.(以下「Bisu」)は尿検査のIoTを製品化したバイオベンチャーである。同社が提供するBisu Body Coachは、マイクロチップを内蔵した使い捨ての試験紙のようなデザイン。数滴の尿を採取したあとに、専用の小型デバイスに差し込めば、約2分で検査結果がスマホアプリに送られてくる。
そのBisuが、今年10月に3.5億円のシードラウンド調達を発表した。リードインベスターは韓国のQUAD、日本からはアシックスベンチャーズも出資参加している*1。
創業者のDaniel Maggs(ダニエル・マグス)はイギリス出身でケンブリッジ大学を卒業後、弁護士、投資銀行のアナリストを経て日本のDeNAで新規事業企画を担当していたころにヘルケアIoTの可能性に気づき、同社を設立した。マグス氏は現在も東京に在住し、Bisuの拠点も東京とサンフランシスコにある。
Bisu Body Coachの特徴はマイクロ流体技術を採用したスマートさ。同技術は半導体の製作工程を生物科学などに転用したもので、微細なチップの上に回路の代わりに流路を作り、そこに液体を流し込むことで反応検査を超小型かつ高速に行える。これによって、Bisuの尿検査は試験管も紙コップも、病院にしか置けないような大型デバイスも必要としない。これによって、セルフ・チェックアップ、つまり自己検査が簡単になり、生活習慣病の予防はもちろん、日々のトレーニング効果を数値で確認することが可能になる。
同サービスは20項目以上の成分検査が可能であり、血糖値や尿酸値、カリウム、ケトン体*2などの含有値を数値で確認することが出来る。糖尿病や高血症などの予防につながることは明白だが、過剰なダイエットの副作用やトレーニング成果に合わせた適切な栄養補給など、日常生活で期待される効果は多い。アメリカのような個人の医療負担が高い国では当然だが、日本やイギリスのように国民医療保険が浸透している国においても、セルフチェックアップはの重要度は増している。慢性疾患患者の増加は医療費の増加であり、健康人口の減少である。医療費の捻出が家計なのか税金政府なのか、の違いがあるだけで、社会へのネガティブ・インパクトは変わらない。また、CEOのダニエル氏によれば、将来的にはオムツにチップを埋め込むことで乳児や要介護者の健康状態を管理したり、唾液を用いた検査への対応も視野に入れているという*3。
引用情報:
*1
Techcrunch(2021), Japanese healthcare startup Bisu raises $3.2M seed round to launch its lab-on-a-chip product, retrieved from
https://techcrunch.com/2021/10/06/japanese-healthcare-startup-bisu-raises-3-2m-seed-round-to-launch-its-lab-on-a-chip-product/
*2
BRIDGE(2021), HAX卒業生のBisu、3.5億円をシード調達——家でも尿や唾液をラボ並みの検査、アシックスと協業も, retrieved from
https://thebridge.jp/2021/10/bisu-seed-round-funding
*3
MONOist(2020), IoT尿検査デバイスのBisu、技術へのこだわりが招いた試作時の失敗とは, retrieved from https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/2007/14/news005.html
参考情報:
https://www.bisu.com/