「デザイナーのためのDropbox」を掲げるPlaybookがこの8月、シードラウンドで400万ドルを調達した。リードインベスターにはFounders Fund。創業者のJessica Koが勤務していた不動産テック 、Opendoorの創業者 Eric Wuを含む総勢10社がこのラウンドに参加した*1。
同サービスは無料版でFree、Pro、Enterpriseの3サービスからなり、それぞれ100GB、4TB、無制限のファイル格納容量を提供する。これは有料版Dropbox(Professional版で3TB)より1TB大きく、しかもPlaybookは現在Pro版まで無料提供中(利用登録とInvitationが必要)。大きな画像データを大量に格納するデザイナーにはありがたいサービスである。そして何より問題なのは、ファイル検索のしやすさである。Dropboxのようなファイル・ストレージサービスで、必要なファイルを見つけることはなかなかに難しい。ファイル名やテキストで引っ掛けるか、フォルダ名やディレクトリ構造を丁寧に定義し、あるべき場所に格納することで探しやすくする努力が必要である。テキスト主体の文書ファイルは比較的探し当てやすいが、画像ファイルとなるとさらに難しい。テキストデータがほとんどないので、検索で引っ掛けることが困難だからである。
Playbookはこういった画像データに自動的にタグ付けや分類を行うことが出来る。複製ファイルがあちこちに散らばっていても一つにまとめてくれるし、各ファイルはサムネイル化されるので、見た目でどのファイルかわかる。各ファイルごとにコメントやメンションをつけられるので、一つのファイルを共有しながら作業を行うコラボレーション機能も実装されている。
画像:Playbook Communityより
Playbookは、コロナ禍で拡大したリモートワーク、特にフリーランスのデザイナーたちが爆発的に増えていくことを予測しており、フリーランサーのニーズに答えるべく開発を進めている。実際、リモートでのコラボレーション作業が進む現在において、仕様変更や対応、これに伴う素材やアウトプットのバージョン管理は非常に難しい。作業進捗中にSlack経由での指示変更に対応したあと、時間差でメール指示が入って巻き戻し、などということが数分の間に発生する。その間にファイルのバーションは数回変わり、下手をすると格納場所もわからなくなる。何が最新ファイルで何が完了ファイルか、把握し続けるのは難しい。特にクリエイティブの場合は大変だ。
今後は、依頼主と一度もリアルで会うことがないまま仕事を完了させるケースは増えていくだろう。この状況に最も馴染んでいるのはフリーランサーたちであり、彼らのスピード感や柔軟性に、依頼主である企業側がついていけなくなり始めている。
ほとんどの場合、企業側が用意したコラボレーション環境の中でフリーランサーが仕事をする事が主流であろう。例えば、「ファイルは個々に格納してくれ」「コミュニケーションはこのツールで」などなど。フリーランサーの視点から見ると、これは非常に煩わしい。筆者は米国留学時から5年ほどフリーランサーを経験したが、ファイルストレージは4種類、コミュニケーションツールは20種類、ビデオ会議は5種類を使い分けていた。いずれもクライアント側の縛りによるものだが、正直、どこにどのファイルを収めていたかわからなくなる。この複雑な状況をマネージするだけでも相当な労力を払うので、生産効率は非常に悪くなる。
Playbook創業者のKo氏は、「フリーランサーからのボトムアップ」で状況を変えたい、とTechcrunchのインタビューで語っている*1同。これまで、ボトムアップによる改革は、大抵の場合非効率的で敬遠されていた。しかし、この世界規模での大きな過渡期、いわば社会全体がDXに強制対応させられている中で、最も先端を進むのは個人やフリーランスなのかもしれない。実際、DXの始まりは、消費者サイドが高速にデジタルシフトしたおかげで企業側が変革を強いられている現象、とも説明できる。
Playbookは、フリーランス化が進むクリエイティブの業界構造に変革を起こすインフラの一つになるのかもしれない。