もともとZillowは不動産売買情報サイトとしてスタートし、広告収益をビジネスモデルとして米国最大の不動産広告ネットワークを形成していた。2009年には賃貸斡旋事業に進出し、2011年に上場。彼らの媒体価値を高めていたのは圧倒的な情報量であり、物件数だけではなく、立地周辺のきめ細やかな情報である。築年数や間取り、周辺の地図、価格の遷移はもちろんのこと、周囲に良い学校があるかを示すGreater School Score、公共交通機関へのアクセスしやすさを示すTransit Score、徒歩圏に生活必需品の調達場所がどのくらいあるかを示すWalk Scoreなどを100点満点で表示。LGBTQ保護法が適用されているエリアかどうかまでわかる。そして、AIで不動産評価を行うZestimateと呼ばれる独自に提供する見積機能は、これらの様々なスコアと人気、地価、築年や設備の鮮度(リフォームの有無)を加味して、不動産登録時にほぼリアルタイムで算出される。
そして、自ら不動産を買取り、リフォームして価値を上げて売却する事業(アメリカではiBuyerと呼ばれる)に2019年から参入した。2018年には13億ドルだった売上は、2020年には売上が33億ドルと約3倍にまで成長。Zestimateの見積価格がアメリカ全土の不動産実売価格となってしまうほどの影響力を持っていた。その成長軸であったiBuyer事業の一時停止(正確には不動産買取をしばらくの間停止する)理由の背景は、コロナ禍がもたらした建材、労働力、そして住宅需要そのものの高騰である。
アメリカではかねてからの不動産高騰に加え、コロナ禍による巣ごもりやリモートワーク浸透によって需要が爆発的に増えている。そして、海運が停滞したことによる材木や鉄鋼不足、そもそも外で働く時間が制限されることによる建設労働者不足が相まって、今やiBuyer最大手となったZillowのスケールが仇になったと見られている。業界のライバルであるOpendoorはiBuyer事業を継続しているが、不動産高騰を抑えたい政府によって何らかの規制がかかった場合、高騰するリフォーム原価で逆ザヤを起こすリスクはある*2。
引用情報:*1Bloomberg(2021), Zillow Pauses Homebuying as Tech-Powered Flipping Hits Snag, retrieved from*2NPR(2021), Here's why Zillow won't be buying any more homes to renovate and resell this year, retrievd from