Walmart版Amazon Primeとも言えるWalmart+がリリースされたのは2020年の9月である。コロナ禍のど真ん中にお披露目となったこのサービスは開始から約1年3か月を経過し、2度目のホリデーシーズンを迎えようとしている。その成長は今のところ順調だ。
ブラックフライデーを控え、Walmart+には様々なプレミアムが提供されている。年間98ドルで受けられる恩恵は、宅配の無料配送(最低注文金額は35ドル)を軸に、1ガロンあたり5セントのガソリン割引など。Amazon Primeの年額119ドルより安いが、無料ビデオなどの特典がない分、やや見劣りするかもしれない。だが、近所にあるWalmartからの生鮮配送も配送無料になるので、eコマース兼ネットスーパーとしては非常に使い勝手のよいサービスであり、専用アプリのScan & Goやピックアップ予約を併用することで利便性は爆発的に向上する。
そのWalmart+がホリデーシーズンを前にいくつかのプレミアム特典を強化した。一つは処方箋薬の割引提供である。このサービスは処方箋薬を最大85%、平均で65%割引するもので、薬局機能を持つ4000店舗での受け取りが可能である。コロナ禍が始まる少し前の2019年頃からWalmartは処方箋薬局機能の充実に積極的で、Walmart Healthと呼ばれるサービスラインナップを強化してきたが、2021年6月からWalmart+会員はこの処方箋薬割引のプレミアムを享受できることになった。医療費が高く、生活習慣病患者の多いアメリカでは処方箋薬提供や簡易診療のビジネスが進展を見せており、小売業界はこぞってこの領域に進出している。今のアメリカの消費者は、ドラッグストア大手のCVSやWalgreensはもちろん、Costcoでも処方箋薬を格安で購入することができる。そして、Walmartも処方箋薬購入の選択肢として本格的に加わることになった。
もう一つのプレミアムはブラックフライデーセールへの早期アクセス。日本でも一般化し始めたブラックフライデーセールだが、Walmart+会員は今年からこのセールに4時間早くアクセス可能になる。会員限定商品やセールにアクセスできる権利が与えられるのだが、1年の小売売上の30%〜50%を叩き出すと言われるサンクスギビングデイ前のこのイベントは、売り切れ続出があたりまえ。まして、コロナ禍によってICチップを始めとするあらゆる原料や商材が不足している今年、たった4時間でも早期アクセス+特別セールに参加できる権利は消費者にとって大きいものとなる。
Techcrunchの記事によれば、今年のWalmartはブラックフライデーセールを3回に分割するという。第1回目は11月3日でオンライン先行、11月5日から店舗で展開され、第2回は11月10日にオンライン先行、11月12日から店舗での展開となる。第3回は11月26日のブラックフライデー当日前後となる*1。
このWalmartの戦略はAmazon Primeを出し抜くための戦略であるのは明白だ。セールへの早期アクセスはAmazonの独自会員セール、Prime dayでやっていたものを踏襲している。一方、Amazonの主戦場となるサイバーマンデー(ブラックフライデーセールの週末セール明けの月曜日にeコマースに購買が集中するため定番セール化したイベント)のタイミングは予定通り11月29日と目されるが、物資不足によって欠品を恐れる消費者が早く動くことを予測して、Amazonもセールを前倒しすると見られていた、だが、まだ公式な発表はない。ここにWalmartが先手を打ってきたのだ。
Walmartは既にScan & Goで非接触購買も全店舗で可能であり、eコマース配送はもちろんピックアップ専用ガレージも充実している。コロナ禍で人々が恐れる非接触の需要にきっちり対応している。また物資不足の懸念に対応するため、プライベート貨物船を抑えている*2。
主に販売サイドでDXを推進してきたWalmartはコロナ禍中でさらに存在感を高めてきたが、ここに来て世界的な物資供給の停滞という調達側のハードルに対峙している。自動運転トラックのテストや物流センターの自動化、精密なフリートマネジメントに巨額の投資を敢行してきたWalmartだが*3、次のテーマは国をまたいだ物資輸送、海運もしくは空輸DXへの挑戦かもしれない。