成田空港から都内まで4000円シャトルに海上タクシー −オリンピック前の首都圏移動DX

東京オリンピックを来年に控え、首都圏を中心に様々な交通手段の開発が試みられている中、成田と都心を結ぶシャトル乗り合いサービスがリリースされた。もともと、タクシーの相乗りサービスを提供していたnear.Meがサービスを拡張して展開する。TechCrunchの記事によると、同サービスで提供される車両は最大9人の顧客を輸送できるワゴンタイプで、成田空港から都心15区(新宿区、渋谷区、世田谷区、港区、台東区、墨田区、千代田の9区に加え、江東区、品川区、目黒区、大田区、豊島区、江戸川区)までを3980円で輸送する。

利用客はスマホアプリで空港、自宅、宿泊先からピックアップを依頼し、相乗り送迎してもらう。また、このシャトルワゴンはAIによる最適なルーティングで移動し、輸送時間を効率化。なお、配車依頼は利用の2日前までにオンラインで行う。*1

相乗りサービスに関しては、Uber Poolが有名だ。日本では認められていないが、アメリカではかなり盛んに利用されている。距離にもよるが、通常の単独使用のUber-Xより20%〜50%安くなる。その代わり、道中2,3人拾うので時間はかかる。

near.Meの本来のサービスは、このUber Poolと同じく相乗りサービスである。大きな違いは、Uberが相乗りを前提とした配車サービスを提供するタクシー業者を兼ねるのだが、near.Meはあくまで相乗りコミュニティの運営である。つまり、相乗りしたい人をマッチングし、割り勘を代行するアプリであり、タクシー業者を運営してはいない。ユーザー視点で説明すれば、ユーザーはnear.Meで同一方向に乗りたい相乗り相手を探し、マッチングした時点で最初のユーザーがタクシーを拾う。その後マッチング相手を拾いながら最終目的地に向かい、最後の搭乗者が料金を支払う。割り勘分の料金はnear.Meが計算し、アプリに登録したカードから決済され、支払った人の登録口座に振り込まれる。日本においてUberが違法な「白タク」とされてしまう問題を回避し、むしろタクシー業界の利用促進を補完するアイディアである。シャトル便はこの基本機能を活用したものだ。

東京から遠い成田であるが、格安航空であるLCCの主要発着地点でもある。国内旅行はもとより、多言語対応しているnear.Meのシャトルサービスは、日本の交通移動に不慣れな外国人観光客には便利なサービスとなるだろう。

一方、水上交通の活用も活発化している。2015年に東京や横浜の港湾運送業者の共同出資によって設立された東京ウォータータクシーがある。同サービスは最大定員8名の小型船舶を水上タクシーとして活用するもので、日の出、天王洲、品川、田町、ワールドシティタワーの5拠点をつなぐタクシーサービスとチャーター便を提供する。タクシーサービスは1区間5,000円(夜間航行は8,000円)。5拠点巡回のライドシェアサービスはなんと1区間500円で利用できる(ライドシェア便は品川の代わりに勝どき朝潮が拠点となる)。いずれもクレジットカード決済でWEB予約可能。飛び乗りの場合はSUICAなどの交通系ICカードを利用し、現金決済はない。残念ながら予約アプリはまだリリースされていないようだ。*2

東京湾伝統の水上バスを提供するTOKYO CRUISEは浅草を中心とした7拠点をつなぐ定期便を提供しており、ルートに応じて860円から2,220円の料金形態。事前予約ならWEBからクレジットカードかWeChatPayの決済が選べ、船着き場での飛び乗りは現金支払いも選択できる。100人規模の輸送キャパシティを誇り、松本零士デザインのエメラルダス号など、東京湾観光の代表格としての存在感を放つ。また、11人乗りの大型高級クルーザーボートを基本料金22,000円+距離料金で運行するリムジンボートも同社が提供するサービスであり、こちらもWEB決済が可能だ。*3

いずれのサービスも、渋滞が激しく電車が混雑する東京における観光客の移動手段として大いに期待されるが、今後ますます重要となっていくのはスマートフォン決済、特に外国人のそれに対する対応だろう。

 

現代日本人のメンタリティでは知らない人との相乗りサービスは難しいと考えるフシもあるが、「小さいバス」と考えれば抵抗感は薄まるだろう。実際、筆者がニューヨーク在住時代Uber Poolを使うとき、最初は非常に勇気が必要だった。もし、知らない外国人が同乗してきたら、しかも、その人がギャングだったらなどいろいろ考えたのだが、使ってみれば問題など起こらなかった。社交的なアメリカ人でさえ、同乗者と会話する確率は50%程度である。そして、会話に至ったとしても、極めて平和的なもので、むしろ楽しい出会いの時間だった。

それよりも、料金の問題をアプリが解決してくれたことが非常に大きい。相乗り割り勘となると、料金の按分と交渉、そしてそもそも相乗り相手が払ってくれるのか、が最大の問題である。Uber Poolはアプリが全てを解決してくれる。near.Meは、最終支払いだけは決済者に委ねられるが、按分と決済はアプリがやってくれる。どのみち、1人で乗るよりも確実に安く、シミュレーション額と結果金額が多少ずれてもあまり問題は起きないだろう。

水上タクシーは船着き場発着が前提になるのでnear.Meの様な自由度の高い相乗り(途中で相乗り相手を拾いながら遠くの拠点まで行くなど)は難しいだろう。しかし、本来なら高額なチャーターが安価に利用でき、しかも渋滞する陸上交通を回避できるなら利用価値は高い。現在、東京水上タクシーは固定価格による拠点間運送であり、水上バスの小型版と言う位置づけだが、相乗りの按分と決済を解決できれば新しい需要が開けるかもしれない。例えば、浅草から日本橋に向かいたい観光客を数名単位で束ねたり、品川から羽田空港まで急ぎたい(ついでに気分を楽しみたい)ビジネス出張族に受け入れられる可能性はある。何より、タクシーアプリと連携して、都内大移動が必要な顧客にドアツードアの最適移動ルートが提案できるかもしれない。

near.Meは、Uberの白タク問題を解決し、相乗りのハードルである割り勘決済の解決によって、タクシー業界全体のDXに挑戦していると言えよう。一方の水上交通は、電子決済の導入以外は同じ提供価値であり、DXへの道は未だ半ばというところであろうか。ただ、官民協力による観光推進機構のせとうちDMO*4は都市交通設計を専門とするスタートアップ、Scheme Verge社*5と提携し、この4月にHoraiと呼ばれる旅程リコメンド+海上タクシー手配サービスのベータ版をリリースしている。同サービスは、瀬戸内における主要観光拠点と水上交通を結びつけ、アプリ上で観光ルートを自由に設計し、移動手段を手配することが可能なアプリである。料金形態などの詳細はまだ不明だが、複数拠点間の自由なアレンジと交通手段の調達は移動手段選択の新しい可能性をもたらすかもしれない。*6

引用情報:
*1
Techcrunch(2019), 都内と成田を結ぶNearMeの定額4000円シャトルが品川や目黒、池袋でも利用可能に, retrieved from
https://jp.techcrunch.com/2019/10/30/nearme-airport-shuttle/ , 2019.12.19
*6
PRTIMES(2019), scheme verge、瀬戸内・香川県にてスマート観光コンシェルジュ「Horai」のβ版優先受付を開始, retrieved from
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000038582.html

参考情報:
*2
東京ウォータータクシー(2019)
https://water-taxi.tokyo/
*3
東京クルーズ(2019)
https://www.suijobus.co.jp/
*5
Scheme Verge(2019)
http://www.schemeverge.com/

筆者注:
*4 せとうちDMO
一般社団法人せとうち観光推進機構と金融機関・域内外の民間企業が参画する株式会社瀬戸内ブランドコーポレーションで構成される団体。
https://setouchitourism.or.jp/ja/

※編集部注:TechCrunch Japanの引用記事は、引用当時に存在していたURLを掲載しています。同サイトは2022年5月1日にて閉鎖となるため、リンク先記事が消失している可能性があります。

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