【体験記事】レジゴーが見せるイオンの挑戦

Amazon Goが小売業界に衝撃を与えてから久しい。実はこの衝撃は2016年のことであり、もう5年も立ってしまった。

しかし、一気呵成に拡大するのかと思いきや、その進展は比較的ソフトなものだった。2021年5月現在、お膝元のシアトルに6店舗、シカゴに5店舗、ニューヨークに7店舗、そしてサンフランシスコに4店舗、2020年2月にオープンした生鮮版Amazon GoであるAmazon Go Groceryの1店舗(5月中にレドモンド店を閉鎖し、ブランド名をAmazon Freshに改名予定)を加えれば全23店舗である*1。

一方、リテール王のWalmartは 2017年に、スマホで自ら商品スキャンして決済し、レジを通らずに買い物ができるScan & Goの展開を始めたが、約1年で中止。そして、2020年のWalmart Plusで復活することとなった。

日本最大のリテールであるイオンが4月22日から展開を開始した、スマホを活用した店舗内決済サービスの「どこでもレジ レジゴー(以下レジゴー)」は、WalmartのScan & Goに極めて近い形態である。

現在、レジゴーは全国32店舗で試験運用中。筆者はその店舗の一つ、品川シーサイド店で実際に商品を購買してみた。今回は、この体験をレビューする形でレジゴーを分析してみたい。

1.ダウンロードと起動

レジゴーはiPhoneならApp Storeからダウンロードし、すぐに使うことができる。Android版は5月下旬リリースの予定で、筆者が体験したときはまだリリースされていなかった。このためか、レジゴー体験用の貸し出しスマホが並べられていた。消費者は特に登録も必要なく、このレジゴー専用スマホを手にとって買い物を開始することができる。

 

20210601column01-1

20210601column02

 

アプリを起動すると、近くの店舗が表示され、これを選択して端末と店舗を紐付ける(配布端末はこの作業がいらない)。

 

20210601column03-e1622532547473-2

 

品川シーサイド店舗内で起動すると、同店舗が表示された。店舗内Wifiは使っていないので、おそらくGPSによる測距。ただ地下の店舗でも拾えたので、数分前の居場所履歴などから位置予測しているのだと思われるが、店舗内に4G室内アンテナを張り、そこへのアクセスから拾っているのかもしれない。

2.買い物をしてみる

まず、筆者にとってリモートワークの重要資源であるインスタント焼きそばを買う。

20210601column04

 

これがなくてはリモートワーク中に飢えてしまうので真っ先に補充。

 

20210601column05-1-e1622532637221-1

商品のバーコードにスマホカメラを当てれば瞬時にスキャン完了。あまりに感度がいいので写真に収めるのを失敗し、何度もキャプチャしなおす羽目に。

20210601column06-2

このようにスキャンした商品が登録される。スキャンミスなどで複数カウントしてしまった場合、プルダウンから個数を変更できる。

さて、野菜のようなバーコードのない商品はどうだろうか?

 

20210601column07

ちなみに筆者はブロッコリーが大嫌いであるが、奥さんの指示によりやむなくこれをチョイス。

20210601column15

いわゆる単体売の野菜や魚介類はこのようにリストから選ぶことになる。これはセルフレジなどと同じ仕組みである。ざっと見た感じ、6〜7割の野菜はパッケージかラップに入っているのでスキャン可能。単体売の品目はそれほど多くはないので煩わしさは感じなかった。

 

 

3.決済する

いよいよ決済に向かう。「お支払い」のボタンを押すとスキャンした商品が積算され、決済準備となる。

「お支払いへ進む」ボタンを押すと、QRスキャン画面に変わる。スマホ内で決済すると思っていた筆者は一瞬パニクる。

20210601column11-Aug-11-2021-02-25-16-82-AM

慌ててレジを探す。そりゃそうだ。クレジットカードもApple Payもアプリに紐付けていないのだから、レジで払うしか無い。

 

20210601column12

「レジゴー対応レジ」というのぼりを発見。レジなし体験を期待していたがレジに並ぶという予想外の体験に。

20210601column14-1-2

レジ前にある支払い用QRをスキャンするとこの画面に。どうやら筆者の買い物内容がレジに送信されたようである。つまり、先程の「お支払いへ進む」ボタンを押すとカート内の買い物リストデータが集計され、QRを読むとそのレジの端末に情報が送信される。QRにはレジをユニークに特定するアドレス情報が入っているのだろう。悪用されるとアレなのでQRの写真は載せない。

その後は、いつものセルフ決済レジで現金やカード、電子マネーを選んで支払い完了。

 

20210601column15

 

キャッシュレスな筆者は最近iD専門なので、iDで決済した。

 

■体験レビュー

体験してみて解ったことはレジゴーはWalmartのScan & Goを途中まで踏襲しているが、決済部分だけはレジを通させるというものであるということだ。つまり、モバイル内での決済は行わず、レジを通らなければならない。このため、レジの行列には並ばなければならない。WalmartのScan & Goも、Amazon Goもレジに並ぶ、というペインをゼロにすることを目指したサービスなのだが、レジゴーはこのペイン除去をある意味捨てている。では、レジゴーが削っている顧客のペインとは一体なんだろうか?

 

まず最初に、現在主流となった機械決済型のレジ待ちを構成する工程と時間を分解してみたい。仮に1人あたりのレジ処理時間を2分(120秒)とした場合

 

1.カゴを受け取る:5秒

2.WAONカード有無の確認:2秒

3.商品をスキャンする:100秒

4.金額告知と決済レジの指定:3秒

5.カゴを決済レジに移動:10秒

 

といったところではなかろうか?以前ならば、4と5の間に、小銭を数える、財布の中のクレジットカードを探す、という工程があったが、スキャンと決済の工程が分離した現在では、それがなくなった。

すなわち、現在のほとんどのレジ待ち時間は商品スキャンの時間となる。レジゴーは、レジ待ちという工程をゼロにするのではなく、レジ待ちで最も時間を費やすスキャン工程を省くことで最小化する、というペイン除去を選択している。

実際、レジゴー対応レジでのレジ待ち行列は極めてスムーズにさばかれ、5人並んでいても数分で終了する。

 

次に、スマホスキャンおよび決済は新しいペイン、すなわち決済カードのスマホ紐付けという工程を生んでしまう点が上げられる。説明したように、レジゴーにはクレジットカードの登録がいらない。決済はあくまで決済レジで行うので、現金でも利用できるサービスである。クレジットカードの利用率が低い日本においてこのペインは非常に大きい。

20210601column16-2

最後に、不正利用の問題である。WalmartがScan & Goを中止した理由は、不正決済が非常に多かったからと言われている。Scan & Goは、スキャンと決済が終了した後、決済完了を示すバーコード画面を出口にいる店員に見せて退店するのだが、実際の購買料より少なく申請して決済するケースが多発した。紙のレシートが発行される訳ではないので、最終確認する店員はバーコードの有無で判断することになる。仮に疑わしい買い物をしている人がいても、逃げられれば終わりである。キャッシュレスが進むアメリカでも、クレジットカードを持てないアンバンクド層(銀行口座を持たないためクレジットカードを作れない層)は3000万人以上いると言われているのだが、その多くは低所得者層か移民である。彼らはプリペイド型のクレジットカードを使ってScan & Goを利用するので、不正がバレたとしても個人特定されることは無いのである。

レジゴーはおそらく、決済情報をレジに送付した段階で、レジの店員はスキャンされた商品リストを確認することができる。商品名や点数をざっとみるだけでも、カゴの中とのギャップはおおよそ判断できるだろう。何より、そういった目視チェックが行われることを前提で、不正を犯す度胸を持つ人は極端に少なくなる。レジゴーでのレジ通過は不正抑止へのプレッシャーでもあるのだ。

 

こうして考えてみると、レジゴーの仕組みは非常によくできている。アメリカや中国の小売業は、モバイルコマース、配送、ピックアップ、決済、そしてスキャンという機能をすべて備えたオールインワンアプリを前提にサービスを組み立てている。このため、様々な手続きを一つのアプリで完結させることでペイン除去を実現する、というコンセプトが鉄則のようになっている。レジをなくし、スマホの中に入れてしまうのがベストソリューションと目されているだろう。レジゴーは、決済プロセスをまるっとスマホに吸収させるのではなく、レジ処理時間の時間短縮に集中特化し、主にスキャン工程をスマホに代替させたサービスである。このため、決済手段に縛りがなくなり、不正抑制もできる、優れたソリューションであるといえよう。

ただ、一つ付け加えておきたいのは、生鮮コマース対応の遅れは依然として存在することである。米中各国は生鮮コマースが極めて進んでおり、ほとんどの商材がモバイルアプリから買えて、配送、ピックアップも選択できる。このアプリ上に店舗決済機能を加えることで購買履歴を包括的にトレースし、消費行動をビッグデータで分析しながら、仕入れやプロモーションを最適化している。Walmartを始めとする大型店舗は、このデータを活かして広告ビジネスの拡張を模索している。おそらく数年以内に、量販店のデジタルサイネージをリアルタイム・ビッディングできる時代が到来する。WalmartがDSP大手のTrade Deskと手を組んだ事実が雄弁にこれを裏付けしている*2。

 

レジゴーは、レジ待ち時間の短縮という点に限れば極めて優れたサービスである。一方、レジ待ち時短に特化したがゆえに単機能ソリューションとなってしまい、リアルとデジタル双方をシームレスに繋ぐ購買体験に今後どのように寄与できるかは未知数である。いずれ、センサーを活用した完全無人のレジゴー専用ゲートができるかもしれないし、モバイルコマースやBOPISと融合して、イオンならではのオムニチャネル体験が構築されるかもしれない。筆者はその日が来ることを切に願っている。炭酸水やインスタント焼きそばは定期的にネット配送で補充したいし、イオンが誇るタスマニアビーフは店で吟味して買いたいがレジには並びたくない。何より、ソファに寝転がりながら配送注文したいし、店舗とネット注文でアプリを使い分けたくもないのだ。この記事は、週に3回はイオンを訪れる筆者からの心の声である。

 

参考情報:
イオンリテール株式会社(2021),
https://www.aeonretail.jp/pdf/210416R_1.pdf
prtimes(2021), イオンリテールは3月より、“レジに並ばない”お買物スタイル「レジゴー」本格展開, retrieved from
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002064.000007505.html

引用情報:
*1 GeekWire(2021), Amazon rebrands Amazon Go Grocery to Amazon Fresh, closes Seattle-area store near Microsoft HQ, retrieved from
https://www.geekwire.com/2021/amazon-rebrands-amazon-go-grocery-amazon-fresh-closes-seattle-area-store-near-microsoft-hq/
*2
CNBC(2021), Walmart enlists The Trade Desk as it plots big growth for its ads business, retrieved from
https://www.cnbc.com/2021/01/28/walmart-partners-with-the-trade-desk-for-ads-business-.html

この記事が気に入ったら フォローしよう

最新情報をお届けします。

Twitterでフォローしよう