AmazonのデスノートとWalmartの逆襲:前編

第一部:デスノートからの脱却

 

Death by Amazonという言葉をご存知だろうか?

 

元総務省、現在野村総研IT基盤技術戦略室長の城田真琴氏の著書で昨年有名になったのでご存知の方も多いと思われるが、この言葉自体は2012年にできた言葉である。

アメリカのBespoke Investment Groupがしたもので、企業を評価する指数の名称なのだが、文字通り、Amazonによって死の淵に追いやられそうな企業を推し量るインデックス(指数)であり、対象となる数十社の株価平均とAmazonの株価を比べるような形で投資判断に使われている、らしい。

 

Source: Barron’s(2017), The Amazoning of American Retail

https://www.barrons.com/articles/the-amazoning-of-american-retail-1494046629

 

上記の図のようにS&P(Standard & Poors)の指数などど比較したりして、分析されることが多いようである。

このDBA(Death By Amazon)指数、書籍からスタートしたAmazonなので、もちろん書籍販売大手のBarns&Noblesは筆頭格でリストに入っている。Macy’sなどの百貨店、Costcoなどのホールセール、2018年に破産したToys”R”usやSears,同じく2016年破産の スポーツ用品のSports Authoritiesなど。そしてもちろん、あのWalmartも入っている。まさにAmazonのデスノートというべき指数である。

そのWalmartが最近ドラマチックな復活を遂げ、DBA指数から脱出しそうな勢いでなのである。その背景には、Walmartがここ数年積極的に取り組んできた、大規模な構造改革と野心的な新規事業展開がある。まさに現在進行中の、巨大企業のDXケースがここにある。

 

Amazonが抜けないWalmartの壁、Walmartが抜けないAmazonの壁

過去も昔もWalmartはアメリカの家庭消費を支える圧倒的リーダーである。90%のアメリカ国民はWalmart店舗から10マイル以内に住んでおり、平均すると週に1回はWalmartに来店しているという。そのWalmartを10年来追いかけ回しているのがAmazonである。

NRF(全米小売業協会)が毎年発表するSTORES TOP RETAILERSの2019年版*2では、Amazonはアメリカ市場における小売業ランクでとうとう2位に上り詰めている。売上総額は1200億ドル。1位のWalmartは3870億ドルなので未だ3倍の開きがあるものの、Top3常連のCostcoを昨年抜き、永遠の2位を守っていたKrogerを抜いたことは驚嘆である。2010年度ランクではAmazonは26位であり、この10年で25社を抜き去ったことになる。昨年、高級スーパーのWhole Foodsを買収した加算はあるものの、とうとうここまで来たかという感慨深さ、というか恐怖すら感じる躍進である。

しかし、それでもまだ、全然追い抜けないのが、巨人Walmartの壁なのである *1。

ちなみに、全世界売上で見ても、AWSの売上を加算しても、Walmartの販売力には及ばない *2。

そのAmazonは、Eコマース事業において独自マーケットを開拓し続けて成長しているわけではない。先述の「デスノート」に乗った企業の売上を食いつぶしながら成長している。Amazonが小売のディスラプター(破壊者)と言われ、DBA指標が生まれる所以がここにある。Walmartもライバルとのゼロサムゲームを勝ち続け、世界展開によって継続成長を続けているのだが、Amazonの土俵であるeコマースでは、まったくもっていいところがなかった。Walmartに限らず、全ての小売業はAmazonの前にひれ伏さざるを得ない、そんな風潮がこの10年の小売業界を支配していた。

Walmart最大の弱点はeコマース販売力の弱さである。Walmartは全米4756店舗、ホールセールのSam’s Clubが599店舗、そして世界展開のWalmart Internationalが5993店舗、合計11,348店舗という圧倒的な販売ネットワークを誇り、世界最大の小売売上を維持し続ける巨人だが、ここ10年ぐらいはマイナス成長を含め、一桁%の成長で鈍化傾向が見られていた。その間、Amazonは2001年以降、平均28%で成長している。

 

1016columthum03

 

ご存知の通り、Amazonの利益の大半はAWSによるものであり、純粋な小売業と比較するのはフェアではない。しかし、逆に言えば、Walmartが純粋な小売業でいる必要もないのだ。おそらくWalmartは、Amazonの戦いを通じてこれに気づいたのだろう。そして、気づくまでには時間が必要だった。伝統的小売業の王である自社の価値観を一旦横に置き、デジタルの価値観を受け入れて共存していく。収益構造も柔軟に変化させていく。デジタルプレイヤーを偉大なるWalmart帝国に吸収するのではなく、同胞として受け入れ、共に反映を目指すためにはどうすればいいのか。このピボットを大きく進め、Walmartの停滞を変えるきっかけになったのが、Jet.comの買収である。

 

引用情報:
*1
NRF(2019), STORES TOP RETAILERS 2019, retrieved from
https://stores.org/stores-top-retailers-2019/
*2
MGM Research(2019), Amazon vs Walmart – Revenues and Profits Comparison 1999-2018, retrieved at Aug. 26, 2019, retrieved from
https://mgmresearch.com/amazon-vs-walmart-revenues-and-profits-comparison-1999-2018/

この記事が気に入ったら フォローしよう

最新情報をお届けします。

Twitterでフォローしよう