シェアエコノミーの巨人にして老舗、クレイグスリストがとうとうアプリをリリース

アメリカに住んだことがある人なら、Craigslist(クレイグスリスト)の名前を知らない人はいないだろう。そして、この一見旧世代の遺産のようなサイトは、全米No1のシェアリングコミュニティを形成している。正確に言えばコミュニティというより「売ります買います掲示板」である。マイアカウント機能があり、出展情報と個人プロファイルを紐付けることはできるが、SNSのようにメッセンジャーでリアルタイムの直接通信ができたり、いいねを押したりする機能は一切ない。もちろん決済代行も無ければ配送サービスなどもない。設立は1995年と老舗中の老舗であり、日本で言えば2ちゃんねるのようなものだ。それでも、未だに個人間取引のメディアとしてはNo.1クラスのトラフィック量を誇り、そのシーラカンスのような存在感と成功から「シリコンバレーの七不思議」の一つと言われている。

そのCraigslistのスマホアプリが出たらしい。YanFlexという会社が提供する無料アプリであるが、そのシーラカンスのような前世代的デザインの世界観を忠実に守り、レイアウトの最適化やアイコン表示でスマホ操作が便利になったくらいである。出品や求人の登録者はアカウント登録が必要(もちろん無料)だが、応募者の個人情報登録は一切必要ない。掲示板に書いてある連絡先に電話やメールをすればいい。アプリの場合は、電話番号(メールアドレス)をクリックするだけで電話(メール)できる便利さはあるが、それ以外の便利機能はない。

Craigslistは創始者のCraig Newmarkの名前を関した情報掲示板で、クラシファイド広告の一つに分類される。英語でいうと何やら最新型のように聞こえるが、要は新聞の三行広告にネット特有のサイト内検索機能がついたようなものである。もともと、Craig氏のボランティア的なサービスとしてはじめ、サーバー維持費と詐欺防止のために求人広告費を徴収するようにしたところ、またたく間に売上が拡大。2016年時点で売上は年間6億9400万ドルを超え、ネット売上は5億ドル、しかも従業員は2017年時点で50人というおばけ企業である。また、アクセス数も全米トップ10の常連で、月間300億PVを稼ぐ。英語だけでなくスペイン語、フランス語、ドイツ語など多言語に対応し、現在では日本語にも対応している。日本のユニコーン、メルカリがアメリカで苦戦したのもClaigslistがあるからと言われるくらいである。

実際のところ、Craigslistは黎明期からインターネットの魅力(もしくは問題点)の一つである、アンダーグラウンド性を維持し続けており、継続的に訴訟を起こされたり非難されたりしているのだが、とにかく続いている。非難される理由は麻薬取引や売春の温床となったり、詐欺師や犯罪者との取引によるトラブルが原因である。一方で、極めて便利であることも事実だ。一人暮らしの女性が重いエアコンや冷蔵庫を廃棄したり、米国駐在が終わって車や家財を売りたいとき(通称Moving Saleとかいう)にCraigslistはかなりの威力を発揮する。ちなみにアメリカでは中古車ディーラーは市民に嫌われる仕事の一つ(買い叩かれる、押し売りされる、ぼったくりされる、粗悪品を掴まされる、など)で、中古車の個人間売買はかなりポピュラーであり、Craigslistを経由での売買が根付いている。

我々日本人にとって、怪しくてダサいデザインのCraigslistの成功は奇異であるが、これはアメリカにとっても同じだ。しかし、日本より圧倒的に「人が動く」アメリカにおいて、Craigslistの機能は必須である。売買だけでなく、バンドの欠員補充や、庭の草むしりの求人だって無料で募集できる。昨日仕事をクビになった人が、とりあえず家のものを売って急場をしのいだり、訳あって流れてきた移民が当座の生活資金を得るために、穴を掘ったり荷物運びを買って出たりするための、昔ながらの掲示板なのである。何より、Craigslistはそのデザイン同様、商売っ気がない。流通決済の間に入りマージンをとろう、とか、大手ブランドの宣伝効果を高める広告を出そう、などを一切考えない。あくまで個人間のやり取りの「場」を提供するだけである。

DXを考えるとき、どうしても効率化や先進的機能提供を考えてしまうが、Craigslistの成功は、市民が欲しているのは機能ではなく、価値であることを雄弁に物語っている。そして、その価値が取るべき形の難しさも同様だ。彼らが表現しているのは、機能充実や作業効率化に1億円かけても売れないものは売れないが、チープなボランティアであっても売れるものは売れる、という禅問答のような模範解答かもしれない。そして、シーラカンスであることを守った彼らが、スマホとAIの時代で「シリコンバレー7不思議」の伝説をこれからも守ることができるか、興味深いところである。


[参考記事」
Quota(2019), Craigslistとはどんな会社で、サービスがあるのでしょうか?日本に同業態もしくは近い業態の会社はありますか?, retrieved from
https://qr.ae/TZlh3p

Techcrunch(2019), Finally, an official Craigslist app
https://techcrunch.com/2019/12/04/finally-an-official-craigslist-app/

Wikipedia(2019), Craigslist, retrieved from
https://en.wikipedia.org/wiki/Craigslist

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