中国のリテールは沈むか伸びるか?新型コロナ影響下からの未来展望

新型コロナウイルス(COVID-19)の最初の震源地である中国の小売業界は大きなシフトチェンジを強いられている。そして、それは必ずしも悲観的内容ばかりではないかもしれない。中国のリサーチ会社、Equal Oceanがシリーズ特集記事をリリースした。その名も“Why Covid-19 Won’t Harm the Robustness of China’s Retail & Consumer Industry”(COVID-19は中国の小売及び消費者業界の堅牢性を蝕むことはない、と何故言えるのか?)である。同誌の親会社であるEO Companyは中国発信でかつ様々な財界からの出資を集めているので、中国復活を支える論調に傾くことはあるだろうが、それを差し引いても納得感がある、興味深い見解を述べている*1。

 

まず、最初の論点は、COVID-19はまだまだ世界に広がる、というもの。まだ「過去のもの」とは言い切れないが、中国は数ヶ月早く、そして最初にこのパンデミック被害を経験した国であることは、世界中の誰もが知るところである。そして、その苦難から、小売業界と消費者は新しいモデル、すなわち「非接触型配送」という仕組みに接触し、慣れることができた。無人店舗はもとより、スマホ注文からの置き配など、現代の消費者は販売員とも配送員とも一度も近距離接触することなく商品を手に入れる。人々は現金を使わず、人と接触せず、あらゆる物を買える時代に突入している。しかし、伝統的購買体験、すなわち対面販売の魅力は、このようなデジタル完結モデルの大きな壁となっていたはずだ。期せずして、他人との接触そのものが強烈に成約された環境下で、当然のことながら「非接触型配送」は伸びた。同誌によれば、1月から2月にかけての中国消費財のオンライン購買は前年比で3%ほど伸びた。そして、その80%が「非接触型配送」であるという*2。

第二の論点は、このCOVID-19下で起こった影響が、サブセクターに与える影響である。

 

 

同誌の分析によると、多様なSKU、つまり多品目で、配送スピードが早く、緊急対応力の高い企業が大きく伸びたという。すなわちJD.com(京東)、WeChatミニプログラム(いずれもTencent系)、そしてキャッシュレスで鮮魚注文+即時調理+ロボット給仕で有名になったFreshippo(盒馬鮮生:Alibaba系)がこの領域を牽引している。いずれも、オフライン店舗とオンラインをつなげる、日本で言えばOMO(Online Merge Offline)的サービスの先駆けとなったサービス群である。これらのサービスは、AlibabaのJack Ma(馬雲)が2016年に提唱したニューリテールとして注目を浴びた*3が、この数年は伸び悩んでいた。生鮮市場を中心とした伝統的な店頭販売の魅力は依然として高く、この変革に挑んだ彼らはまさに産みの苦しみを味わったのだが、COVID-19の震源地とも言われる生鮮市場のシャットダウンと消費者の忌避意識が、ニューリテールの浸透を助けた格好になった。また、彼らがフロント・ウェアハウスと呼ぶ業態も大きな伸びを見せているという。この業態は、小売店舗を持たない生鮮販売を行うもので、オンラインオーダーによって倉庫から生鮮食材を直送する。その代表格がTencent系のMiss Fresh(毎日優鮮)である。いわゆる生鮮ECとしてくくれば、先述のFreshippoとライバルの位置づけになるが、Freshippoは店頭小売が可能な生鮮市場を配送拠点兼小売店舗(とはいえ過剰なまでにロボット化されているが)としており、MissFreshは原則店頭売りを行っていない。そのMissFreshはCOVID-19が本格発生した1月中旬から2月前半にかけて、オンライン注文が前年比309%アップし、取引量も465%増加したという。同社はフルフィルメントの処理能力で消費者のニーズを満たせずにいたが、この災厄が転じて福となった。Equal Oceanは、両現象もまた短期的なインパクトであり、パンデミック後の消費者の店舗回帰やフロント・ウェアハウスのビジネスモデルに関しては検証が必要だとしている*4。

 

ともあれ、COVID-19の被害が最初に直撃した中国は、最初にこれを乗り越える国になる可能性は高い。その中で様々な試行錯誤があり、ビジネス側も消費者側も、特別な状況下で特別な消費経験を経ることとなった。短期的な特別需要であるにせよ、社会全体が新しい体験に接触した事実は大きい。少なくとも「生鮮は自分の目で見て選ぶべき」という伝統的な観念から「配送もアリ」に転換する人たちを急速に増やすきっかけになることは間違いない。そして、ビジネスサイドは更なる改良と投資を加え、ニューリテールを洗練させていくことになるだろう。

 

引用情報:
*1,2,4
EqualOcean(2020), Why Covid-19 Won’t Harm the Robustness of China’s Retail & Consumer Industry, Part 1, retrieved from
https://equalocean.com/retail/20200319-why-coronavirus-wont-harm-the-robustness-of-chinas-retail-consumer-industry
*3
ネットショップ担当者Forum(2018), アリババが推進する「ニューリテール」時代の顧客体験とは? テクノロジー&データが牽引する小売の未来, retrieved from
https://netshop.impress.co.jp/node/5545

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