CVS Healthの次期CEOカレン・リンチ ー買収先Aetna出身のグループ総帥誕生
アメリカでドラッグストアと言えば、CVS HealthとWalgreensである。以前はRite Aidとの3強だったが、買収統合合戦によって2強になってしまった。その一角を占めるCVSのCEOに、カレン・リンチ(Karren Lynch)氏が就任することとなった。発表は2020年の11月。そして2021年2月に正式就任した。彼女は、2018年にCVSが690億ドルを投じて買収した保険会社、Aetnaの元CEOであり、この買収ディールの中心人物でもある*1。
現在アメリカの医療再編はドラッグストアを中心に回っているといっていい。かねて悪名高い連邦医療システムは、ACA(Affordable Care Act 通称オバマケア)と呼ばれた低所得者・高齢者向け医療保険制義務化からトランプ政権時の逆走、そしてバイデン政権発足による再考を経て、今、医薬品リテール業からのボトムアップによって本格的にギアが回り始めている。
アメリカは医療費が高額で有名であると同時に、医療保険制度のほとんどが民間保険会社で、5000万人ほどが無保険(ACA施行前)という、特異な環境でもある。その医療保険大手の一角を占めるのがカレンが以前社長を務めていたAetnaである。Aetnaはオバマケアに参加し、低所得者向け医療保険を提供していたが巨額の赤字を出して4年前に撤退。その理由の一つは、低所得者が医療サービスを使いすぎ、支払い保険料より償還(医薬品支払価格を保険会社が充当する)金額のほうが多かったためである。この背景には処方箋薬、ジェネリック薬品双方の高騰があり、製薬会社は儲かるが保険やドラッグストアは割を食う、という構図があった。カレンはCVS Healthの社長として再び、2021年よりエクスチェンジ(ACA対応保険を政府によって販売するチャネルの通称)市場への参入を決めた。
CVS HealthとAetnaの統合は、オバマケアで浮き彫りになった医療製薬業界のいびつな構図を是正するための大戦略だったといえよう。実際、CVSは積極的な買収で医療消費市場の垂直統合を続けており、順調に売上と利益の双方を伸ばしている。またコロナ禍による予防医療はもちろん、日用品ニーズにも応え(ドラッグストアは営業時間制限を受けなかった)、新しい顧客層を獲得して新たなステージに向かっている。そして、その背景には、Aetnaが持つ膨大な医療保険データと、CVS Heathが持つ顧客データの融合があり、高度にデジタルサービスに適応した販売チャネルがある。
カレンのCVS Health CEO就任は、アメリカの医療DXを業界・国家レベルでボトムアップから推し進める第一歩となるのかもしれない。
引用情報:
*1
FOX(2020), CVS taps Aetna's Karen Lynch to succeed CEO who led $69B merger, retrieved from
https://www.foxbusiness.com/markets/cvs-health-beats-profit-on-pharmacy-boost-says-ceo-merlo-to-step-down
参考情報:
CVS Health(2021), Meet our new CEO, Karen S. Lynch, retrieved from
https://cvshealth.com/news-and-insights/press-releases/meet-our-new-ceo-karen-s-lynch
PYMNTS(2021), CVS Boosts Q4 Revenue With Focus On COVID Testing, Vaccines, retrieved from
https://www.pymnts.com/news/retail/2021/cvs-q4-revenue-covid-testing-vaccines/
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