トロントはGoogleによってスマートシティのモデルケースとなるのか?

トロントがスマートシティの先行事例になるかもしれない、といえば少し乱暴かもしれない。しかし、それは現実味を帯びてきた。

Sidewalk Labsという会社がある。Googleの持株会社であるAlphabetが2014年に設立したスマートシティ開発のための子会社で、アクセラレータのPlug and Playや、ニューヨークを中心にフィットネス事業を手がけるCityBlockなどからも出資を受けている。同社は2017年、カナダのトロントにあるウォータフロントエリア(Quayside地区)のスマートシティ化構想を提案していたが、2019年11月、これがようやく認められた形となった。この会社は、基本的にAlphabetが同地区のスマートシティ化プロジェクトのために立ち上げた会社である。同社のWEBサイトによれば、同プロジェクトによって、同地区の二酸化炭素排出を89%カットし、低所得者層でもアクセス可能な金融サービスを提供し、44,000個の直接的な雇用創出を生み出し142億ドルの経済効果を2040年までに生み出すという。

“IDEA"と命名されたこのプロジェクトは、基本的にGoogleのテクノロジーが背景にあるので、検索やマッピング技術を中心として同地区のあらゆるデータをリアルタイムに取得・分析し、都市計画や交通制御、コミュニティ維持やビジネス開発に役立てていくという。

WIRED社の記事によると、このプロジェクトは批判にさらされてきた経緯がある。その基本論調はプライバシーの侵害だ*1。IDEAによって生まれ変わるこのQuayside地区はオンタリオ湖南岸の埋立地である。発電所やリサイクル施設、そしてヨットクラブなどが立ち並ぶ。倉庫や工場が立ち並ぶ工業地帯の港湾地区という感じではなく、換算とした、まだまた手付かずの広大なウォーターフロントである。タワーマンションや緑地公園の建設が進んでおり、いくつかの商業施設も立ち始めた。東京でいえば、バブル時代前のお台場や天王洲のようなところである。その地区が、Googleテクノロジーによってスマートシティになるという計画だが、その対価として個人情報はほぼすべてSidewalk LabsすなわちGoogleに牛耳られることになる。もちろん、同社が発表した1500ページにも及ぶマスタープランでは、全てのデータは政府が監督するデータ管理組織によって管理されるとしているが、市民はそれを信じていなかった。そして、2019年、とうとう政府管轄下の都市開発プロジェクト監督機関であるWaterfront Trontoが契約を締結した。*2

トロントは現在急速に開発が進んでいる。ニューヨークやボストンなどアメリカ東海岸主要都市との距離の近さもあるが、カナダ政府が同地区の先鋭化を進めている空気は感じ取れる。カナダにおいて、テックスタートアップといえばまずトロント発になる。リテールテクノロジーでアメリカ本格進出を果たしたTulip RetailやローカルレストランのオーダーアプリのRitual, そして先日NTT Data社のオープンイノベーションコンテストでファイナリストとなったPantonium On-Demand Transitは、まさにスマートシティの交通制御技術を軸とする企業である。

スマートシティの根幹は、基本的にデータ取得である。取得したデータを元に様々な分析と予測をかけ、都市交通やビルマネジメントの全体最適化を実現することで、都市という規模単位でのパフォーマンスを上げていく。仮にこれを公共主導で行ったとしても、プライバシーの問題は大きな争点になるが、基本的な収益構造を広告に依存するGoogle参加のSidewalkがプライバシーデータを得ることになれば、街ぐるみでの利益誘導が疑われる事自体、大げさではないだろう。

それでも、筆者はトロントの前進に期待する。少なくとも、実際に生活する市民とともに歩むことで、調査や技術開発だけでは決して発見出来なかった問題点が見えてくるだろう。そして、そもそもカナダ随一のスタートアップ・シティとして成長してきたトロントには、発展に必要な様々な「部品」が生まれる環境がすでにある。スマートシティに必要とされる機能群は幾百ものスタートアップが生み出し続けるだろうが、これが市民の生活サイクルの中に実装され、そのデータを還流させる仕組みは彼らには作れない。そしておそらく、政府にも作れないだろう。このようなスケールのトータルデータマネジメントを実現できるのは、世界にGAFAくらいしか存在しないかもしれない。

筆者は決して検索データ世界におけるGoogleの一強を快く思っていない。それでも、まるで映画のような、本格的なスマート・シティの構想が具体的に前に進むための大きなテコとして作用した同社の存在には感謝したいとも思う。ここから本格的な議論が発生し、これを手本に世界中で別バージョンのスマートシティ・プロジェクトが進んでいくだろう。その時、トロントは、最初のスマートシティとして記憶されるかもしれない。仮にGoogleがスカイ・ネットと化すときが来たなら、サラ・コナーがなんとかしてくれると考えるのはあまりに楽天的だろうか。

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