郵便国際EXPOから見る世界のロジスティクスの潮流
世界には様々な国際博覧会がある。業界の数だけ、趣味嗜好の数だけ存在するかもしれない。PARCEL+POST EXPOは、その名の通り、小包と郵便に特化した国際博覧会である。2019年から開催されているが、どうやら2012年にスタートしたPOST EXPOが前身らしい。ともあれ、郵便と小包配送に関わる様々なテクノロジーの品評会のようなものであり、アワードも持っている。ちなみに2020年はオーストリアのウィーンで開催されるらしい。同カンファレンスは郵便事業の様々な側面に光を当て、各方面の革新的技術を発表する場として重要なものとなっており、イギリスからスタートして、現在ではアメリカはもちろん中国・韓国からの参加も増えているという*1。
2019年アワードのカテゴリーは下記のようになっている。
- Service Provider of the Year
- Supplier of the Year
- Environmental Achievement of the Year
- New Business Development of the Year
- Retail/Customer Service Innovation of the Year
- Last Mile Delivery Innovation of the Year
- Final Mile Innovation of the Year
- Sorting and Fulfilment Hub Technology of the Year
サービスプロバイダすなわち郵便事業者と、彼らに機器・サービスを提供するサプライヤーのトップアワードがあり、その他は、環境目標の達成、新事業開発、小売・消費者サービス、ラストワンマイル、ファイナルマイル、仕分けとフルフィルメント、という8項目にアワードがある。
それぞれの受賞者を観ると、今どきの郵送事情が見えてきて興味深い。
郵便事業者のアワードはAn Postすなわちアイルランド郵政事業が受賞。彼らが提供するAn Post Moneyと呼ばれるファイナンスサービス。低金利のローン、12ヶ月為替手数料無料のクレジットカード、そしてマルチカレンシーのプリペイドカードを提供するサービス。もう一つはAn Post Commerceと呼ばれるeコマース事業者向け統合サービス。切手の購入や集配依頼、DMのデザインや配信管理、トラッキングなどを可能にする。乱暴にいうと、個人事業などの小規模事業者向けにマイクロファイナンスと配送管理を一気にプラットフォーム化してしまった感じで、ハンドメイドクラフトや特産品の通販を営んでいるような企業ならば、資金繰りも配送も、ダイレクトマーケティングもAn Postで出来てしまうというすぐれものである。デザインや使いやすさも含め、とても国営サービスとは思えない完成度の高さである。2016年、同事業は1,200万ユーロの損失を出していたが、コスト削減とサービス改革に着手。2017年は800万ユーロの営業利益に回復。2018年はAn Post Money+Commerceの改革プロジェクトも功を奏し、4000万ユーロの黒字を達成している*2。
サプライヤーアワードはフランスのSolysticが受賞。1950年代の自動車メーカーHotchkiss-Brandt社を起源とし、80年代に郵便関連のオートメーション事業を開始。2000年代に現社名に変更して、郵便事業関連サプライヤーのリーダーポジションをキープしている。同社の専門は メール・ソーティング・オートメーションつまり郵便物の自動仕分けシステムおよび機械である。ごちゃまぜになった集配物をXMSと呼ばれる自動判別・仕分けシステムで仕分けしたあと、MARSと呼ばれる配送準備システムで配送先ごとに分配し、まとめる。仕分けはバーコードと画像判別の両方で行い、フラットメール(はがきや封書)も識別仕分けできるのが強み。最終分配でも再チェックが可能である。そして、Solyと呼ばれる分配ロボットが、仕分けされた商品を集配トラックまで運ぶ。これらのオペレーションは、SOSiと呼ばれるエミュレーションソフトで動作設計と管理が可能となる。Amazonの内部公開で有名になった自動仕分機能をサードパーティとして提供できる。同サービスは、フランスのLa Posteを始め、ドイツ、フィンランド、ポルトガルなどの各郵便事業に導入されているという*3。
SOSi™ - Soly™ delivery preparation from SOLYSTIC SAS on Vimeo.
興味深いのは、部門賞である仕分けとフルフィルメントのアワードである。先述のSolysticが事実上このアワードをとっておかしくないのだが、サプライヤーの最高賞を獲ったことで、次点のPrime Visionが繰り上がった。同社はオランダの集配・仕分関連ソリューションの会社で、郵便事業や空港での積荷仕分を専門としている。同社はSolystic社の小型版とも言え、集配・仕分・配送までの全行程に関わる機器やソフトウェアを提供しているのだが、受賞したのはなんとChinese Address Reader、すなわち中国語住所読み取り機である。まず、アジアからの小包は規格にはまらないサイズが多く、バーコードが汚れているので従来型の自動集配が出来ない、という難題があるらしい。また、中国の税関ラベルは重要な部分が欠落していることが多いそうだ。そして、差出人の住所や名前は漢字で書いてあるのでアルファベットのOCRは通らない。この問題を解決することで、欧州におけるアジア貨物の仕分け効率は格段に上がるという*4。
eコマース、D2C、そして eBayやメルカリのような個人間取引の浸透で、マイクロ配送の需要は大きく高まっている。そして、往々にして各国家の郵政事業はこの流れに取り残され、民間配送業者にその地位を取って代わられてしまうことが、世界各地で多々起こっている。この減少の背景は、実は消費者というより小口の通信販売業者(個人含む)の拡大と、これに見合ったサービス、そして配送需要の国際化ということになるだろう。An Postは、物流のみならず、財務支援(支払いや資金繰り)やマーケティング(DM管理)までを1ストップで提供することで、デジタル時代における中小零細小売業の需要に見事に答えて見せている。Solysticは既に業界のリーダーであり、驚きには値しないのだが、この伝統的企業がAmazon物流的サードパーティサービスを提供すること自体、従来型の企業流通内でも、この様な「ロボティック仕分け」はすぐに実装可能であるということを明示している。アジア人としてPrime Visionの中国語OCRは苦笑いしてしまうが、それだけ中国との配送トラフィックが多いということを意味しており、中国対応は欧州各国にとって非常に重要なイシューなのである。
引用情報:
*1
Parcel & Post Expo
https://www.parcelandpostexpo.com/
*2, 3,
Parcel & Post Expo(2020), 2019 Award Winners, retrieved from
https://www.parcelandpostexpo.com/en/awards.php
*4
PrimeVision(2019), Prime Vision’s Chinese Address Reader: Award winning technology for major challenges, retrieved from
https://www.primevision.com/chinese-parcels参考情報:
Solystic
https://www.solystic.com/
An Post
https://www.anpost.com/