イベント・ドリブンな宿泊予約 ―カナダのディスラプター、Stay22

ホテル宿泊のデジタル化は案外歴史が古い。旅行取扱高世界一のオンライン旅行会社(OTA)に成長したExpediaの設立は1999年。その前身であるMicrosoftの旅行予約システム部門としては1996年の設立で、もうすぐ四半世紀の歴史に到達する。

Expediaの主力商品は航空券予約であるが、その配下にはHotels.comなどの宿泊予約専業持っており、同カテゴリでも世界トップクラスの市場シェアを誇る。そして、航空券と宿泊予約を加算しても彼らが勝てない世界No.1のOTA企業がオランダに本社を構えるBooking.com(1996年創業)である。ちなみに、両社は創業当初からのライバルであり、それぞれ独自に売上を拡張しながら買収による統合を進め、世界トップ2を形成している。ちなみにBooking Holdings(Priceline.com、Agotaなどを含む)の2018年売上は145.3億ドル、Expedia Group(Hotels.comなど含む)は112億ドルである。*1

そして、彼らの牙城を崩す存在は、業界第3位をねらうCtripやTrivagoではなく、民泊の雄、airbnbであろう、と見られている。彼らの正式なサービス立ち上げは2009年。宿泊業界に破壊的なインパクトをもたらしてからもう10年が経過しているが、未上場のため売上は公開されていない。明確にそのインパクトが世に出されるのは、2020年に予定されている上場後であろう。ともあれ、Booking.com、Expedia、そしてairbnbは、販売できる世界の宿泊施設の殆どを網羅していると言っていい。

そこで、Stay22というスタートアップである。2016年に設立されたカナダのモントリオールを拠点とするこの小さな会社は、チケットビジネスの世界カンファレンスであるTicketing Business Forumで2019年のDisruptor Awards(破壊者賞)を獲得している。彼らはイベント開催者向けのB2Bビジネスを展開しており、Event Accommodation Plugin、すなわち、イベント宿泊のためのプラグインを提供する。

要は、Booking.com、Expedia、airbnbなどに掲載中の宿泊施設を地図上に表示する仕組みである。同社WEBサイト上からイベントの基本情報と開催ロケーションを入力すれば、イベント開催地最寄りの宿泊施設状況が瞬時にマップ上に表示される。イベント参加者は気に入った場所をクリックし、宿泊施設を予約できる。

Stay22 マップ表示画面

もちろん、イベント協賛ホテルを特定して、特別価格を反映させることも可能である。

stay22 パートナーホテル指定画面

また、表示言語を変えることも出来るし、ウィジェットとして埋め込むためのコードも同時にシェアされる。

stay22 地図生成終了画面

彼らのビジネスモデルは、OTAからのマージンである。イベント参加者はこれまで、参加イベントの住所を特定して、Booking.comやExpediaに移動してからその住所近くのホテルを探さざるを得なかったが、stay22の登場で、この体験はひっくり返る。stay22が生成するイベントサイト上のMAP上で当たりをつけ、良さそうな場所を予約する。その結果がBooking経由であれ、Expedia経由であれ、イベント参加者にとっては本来どうでもいいことなのだ(ポイントを貯めたいというのはあるだろうが)。

イベント運営者にとってもこれは朗報だ。地図生成自体はものの1分で済むし、ページへの埋め込みは数秒だ。多少のレイアウト設定は必要だろうが、とてつもなく画期的で、しかも無料である。

OTAは旅行の世界にDXを起こした張本人である。一方で、彼らは「自分のサイトで宿泊施設を選ばせる」というモデルなので、他のサービスに行かせないために様々な策を講じてきた。一方の宿泊者たちは、安くて良い施設が見つかればどこだって良い。このニーズを満たしたのがTrivagoなのだが、実は顧客プロセスは変わっていない。むしろ一手増やしているとも言える。

そもそもOTAは、旅行における予約の顧客プロセスをショートカットすることが最大の提供価値である。「旅行代理店を何件か巡る」という作業をしなくても良くなる。「何件か巡る」理由はより費用対効果の高いサービスを探すことである。OTAは比較のための行脚をまとめたアグリゲーションサービスとして旅行観光業界にDXを巻き起こした。Trivagoはさらにこの上流に入り、OTAをアグリゲーションするわけだが、Trivagoは「安くていい場所を探す」ことしかできない。実際の予約・決済処理は各OTAに訪問する必要がある。日本のトラベルコもまた同じである。ちなみにTrivagoは2012年にExpediaに買収されている*2。

Stay22の場合は、いわばイベント・ドリブンである。旅行の理由である「イベント」を起点に宿泊先の選択を促し、OTAまでの最短動線を提供する。さらに、airbnbという新しい選択肢も与えている。イベント参加者の99%はstay22という存在に気づかないだろうが、確実に宿泊先選択までの道のりをスムーズなものにする。少なくとも、本気でイベント参加をしたいユーザーが宿泊先を選択するとき、複数のOTAをぐるぐる回る時間はかなり削減されるだろう。

ただし、旅行ビジネスの売上の多くがイベント・ドリブンかどうかはわからない。休みができたからニューヨークに行きたいと思ったり、行ったことがないからマチュピチュに行きたいと妄想したり、そういった曖昧なニーズを受け止めて明確化させることもまた、OTAの重要な役割であり、おそらく大半のプライベートの旅行需要は、動機の曖昧さから生じるものであろう。

一方、ビジネス出張のようなニーズは依然として大きな部分を占めており、stay22がここに食い込む可能性は非常に大きい。また、オリンピックやワールドカップのようなビッグイベントは確実にイベント・ドリブンな旅行需要である。ともあれ、stay22の成功はさておき、イベント主催者にとってこのようなサービスは朗報に間違いない。



*1 Morningstar.comよりDX Navigator事務局が算出
Booking HD https://www.morningstar.com/stocks/xnas/bkng/financials
Expedia Group https://www.morningstar.com/stocks/xnas/expe/financials

*2 Wikipedia(2020), トリバゴ, retrieved from
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%90%E3%82%B4

[参考情報]
Stay22
https://www.stay22.com/


Ticketing Business Forum
https://www.ticketingbusinessforum.com/awards/

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