ニューヨーク、電動キックスクーターシェアリング事情

2020年11月、電動キックスクーターシェアリング事業をめぐる戦いの狼煙が上がった。舞台はニューヨーク。同市市議会より、2020年6月25日に可決された市内全域の電動バイク•電動スクーター走行の合法化に伴った、電動キックスクーターシェアリング事業の試験運用に関する情報提供依頼書(RFI)及び、電動キックスクーターサービスを提供する業界に対し関心表明依頼書(RFEI)が公布されたのだ。

電動キックスクーターシェアリング事業はすでに各都市での運用プログラムが始まっており、運営業者はすでに決まっている。残っている大きな市場はロンドン市とニューヨーク市の2都市だ。

主要電動キックスクーター企業は、ライム(Lime)、Dott(ドット)、Bird(バード)、Tier Mobility(ティアモビリティ)、Bolt(ボルト)、Comodule(コモジュール)、Spin(スピン)、Voi(ヴォイ)、Wind(ウィンド)、Neuron Mobility(ニューロンモビリティ)、Zipp Mobility(ジップモビリティ)など。

うち、Lime、Dott、Tier Mobilityはパリ市での営業許可を、Bird、Lime、Spinはシカゴ市での試用運転プログラムの許可を勝ち取っている。

今や電動キックスクーター業界はBtoBからBtoG(business-to-government)に変化してきているという*1。

 

さて、実際に電動キックスクーターとはどんなものだろうか?

海外ではElectric Scooterと表記されているが、日本の自動二輪車ではなく、2つの車輪とボードからのびるT字の持ち手と言うフォルムで、片足をボードに乗せ、もう片方の足で地面を後ろに蹴り上げながら進むもの。90年代日本でも一世を風靡した、あの「キックボード」や「キックスクーター」が電動化したものである。

その利便性は、アクセルでの自走式であること、排ガスを出さないエコな電池駆動であること、サイズが小さく扱いやすいこと、操作性がよいこと、渋滞を回避できることなどにあり、従来のモビリティの懸念点を多くクリアする乗り物として世界中で本格的な広がりを見せている。電動キックスクーターにとって、もはやキックは主要原動力ではなくなったのだ。

 

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最近はさらに電脳化までもが進んでいる。

シアトル、オークランド、サンノゼ、サンディエゴといった米国の都市、そしてマドリッドやローマなどの欧州の都市で事業を展開しているSuperpedestrian(スーパーペデストリアン)は、電動キックスクーターに搭載するAIを開発した*2。同社の開発する電動キックスクータの「LINK」には Vehicle Intelligent Safety (VIS)システムが搭載され、AIと73のセンサー、5つのマイクロプロセッサが組み合わされ、浸水、内部ワイヤーの切断、バッテリーセルの温度の不均衡、ブレーキの問題など、LINKの乗車中の安全問題をリアルタイムでモニターし、正しい状態にオペレーションする。

最新のアップデートでは、ジオフェンス(位置情報を利用した特定のエリア・境界線指定)の精度やリアクション、キャパシティを向上し、スクーター自身が乗車禁止ゾーンを認識し速度を落としたり、特定のエリアでの乗車や駐車を禁止したりできるようになるという*2。

また電動キックスクーターをめぐるサブスクリプションも登場した。高品質の素材やデザイン性で「キックスクーターのiPhone」と呼ばれ(TechCrunchより)、著名人からも多く支持を得ている「Unagi」は、米6都市に電動キックスクーターサブスク、Unagi All-Accessを拡大すると発表した。通常購入すると990ドル(約10万8000円)する電動キックスクーター「Model One」を、月49ドル(約5300円)で利用できる。(年間契約で月額39ドル:保険料込み)

顧客がサブスクライブすると、組み立てられた「Model One」が24時間以内に自宅に出荷される。サブスクリプションをキャンセルすると、同社が回収し、工場で行うものと同等の80カ所もの点検を行い次の利用者を待つことになる。

このサブスクモデルが電動キックスクーターの販売にマッチしたことの一つに再利用できると言うことがある。ハイエンド素材を適応して製造しているため、定期的にメンテナンスをすることで3〜5年は利用できると同社は話す。とはいえコロナ禍での需要拡大に伴って生産台数を増やしたため、最近は新品が届くことが多くなっているそうだ*3*4。

最後にパリ市の運営許可及びシカゴ市での試用運用の許可を勝ち取った電動キックスクーターの王者、Limeの最新ニュースにも触れておく。

彼らは、電動キックスクーターシェアリングの拡大に向けたサービス展開にも磨きをかけている。

通常、電動キックスクーターをシェアリングするには企業の指定したアプリをダウンロードし、アカウントを作成したのちに駐車場の場所確認や乗車予約、決済、乗車をする必要がある。同社が発表した新しいサービスは、車両に記載されているQRコードをスマホで読み込めばその場で車両位置確認、決済、乗車を行える仕組みであり、アプリのダウンロードを必要としない。

初回の利用時にアプリのダウンロードとアカウント登録の手間をかけてまでは使いたくない、というユーザーを掴みシェアを拡大する狙いだ。同社はこの施策における実際の利用者のコンバージョンレートは公表していないが、車両の予約が増えてきていると語る*5。

East Bronx E-Scooter Pilot Zone map updated on March 4, 2021

https://www1.nyc.gov/html/dot/html/pr2021/pr21-008.shtml

 

当初3月1日開始予定だったニューヨーク市の電動キックスクーターシェアリング事業の試験運用は資金と人員調整のために晩春から開始になる見通しで、期間は最低でも1年間*6ニューヨーク市ウェブサイトによると、ヘルメット着用と時速20マイル未満が走行許可の条件で、違反者には250ドルの罰金が課される。さらに、試験運用予定地域はイーストチェスターとコープシティからスロッグスネックまでのブロンクス東部地区で57万人の居住者が住む18平方マイルのエリアである。

ニューヨーク市議会が市内全域の利用を可決した際に、いくつかの反対や懸念の意見もあったと言う。

主に、安全上の懸念、移動する速度の危険性、通るのが望ましくないエリアの通り抜けや一方通行の逆走などである。ブルックリン/クイーンズ市議会議員のアントニオ・レイノソは、電動キックスクーターの寿命を考慮し、処分する方法と環境に与える影響について話し合うべきだと主張した上で、法案を承認している。

SuperpedestrianやUnagiの試みを始め、各企業はこの懸念点を自らの技術やサービスで解決できることをアピールし、ニューヨーク市場を勝ち取ることにしのぎを削っている。

実際に試験運用許可が降りる企業の発表は間もなくだ。ニューヨークの電動キックスクーターシェアリング事情から目が離せない。

 

参考記事:
AMNY(2020),City Council revs up cycling boom with legalization of e-bikes and e-scooters, retrieved from
https://www.amny.com/transit/city-council-revs-up-cycling-boom-with-legalization-of-e-bikes-and-e-scooters/
Techcrunch(2020),ニューヨーク市の電動スクーター参入競争が開始, retrieved from
https://jp.techcrunch.com/2020/11/17/2020-10-30-the-scooter-battle-for-new-york-city-is-on/
City of New York(2020), Request for Expressions of Interest for demonstration project(s) of electric-powered scooter share in New York City, retrieved from
https://www1.nyc.gov/html/dot/downloads/pdf/rfei-scooter-pilot-2020.pdf

引用情報:
*1 *2
Techcrunch(2021),AIで電動キックスクーターを安全性をリアルタイムでモニターするSuperpedestrianが米国内で事業拡大, retrieved from
https://jp.techcrunch.com/2021/03/22/2021-03-19-superpedestrian-positions-itself-as-the-go-to-partner-for-cities-with-new-e-scooter-safety-upgrades/
*3
Techcrunch(2020),電動スクーターのUnagiがニューヨーク市とロサンゼルス市でサブスクを提供開始, retrieved from
https://jp.techcrunch.com/2020/08/07/2020-08-05-unagi-the-iphone-of-scooters-now-has-a-subscription-service/
*4
Techcrunch(2021),電動キックスクーターのUnagiが新たに米6都市でサブスクサービスを展開, retrieved from
https://jp.techcrunch.com/2021/03/18/2021-03-17-unagi-expands-e-scooter-subscriptions-with-10-5m-in-new-funding/
*5
Techcrunch(2021),電動キックスクーターシェアのLimeがアプリ不要の乗車機能を展開、予約料金も撤廃, retrieved from
https://jp.techcrunch.com/2021/03/25/2021-03-24-lime-launches-app-less-rides-and-no-fee-reservations-to-get-more-people-riding/
*6
pix11(2021),Submissions due next week for e-scooter share program in NYC, retrieved from
https://pix11.com/news/local-news/submissions-due-next-week-for-e-scooter-share-program-in-nyc/
*7
The Official Website of the City of New York (2021),DOT Announces Zone for E-Scooter Pilot Starting This Spring in the East Bronx, retrieved from
https://www1.nyc.gov/html/dot/html/pr2021/pr21-008.shtml

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