AmazonによるBOPISの民主化−Amazon Local Selling開始

eコマースビジネスの利点であり弱点は宅配である。その便利さから、宅配受け取りの需要は一気に拡大したわけだが、逆に言えば、入手手段が「宅配に限定される」ことはデメリットとなる。これを逆手に取ったのがWalmartなどの伝統的店舗型リテイラーであり、オンラインで買って店舗で受取るBOPISサービスは様々な形で浸透し始めている。


すなわち、Amazonの弱点はリアルの場所に受け取り拠点を持たないこと、と言える。だからこそ彼らは、Amazon LockerやAmazon Goに巨額の投資を行っており、Whole Foodsという店舗網も手に入れている。クルマのトランクを配送先に指定できるAmazon In-car deliveryにも挑戦している。


そのAmazonが10月に発表したサービスがLocal Selling。簡単に言うと、Amazonに出品している小売店は商品受け取り先として自分の店舗を登録できるようになる。消費者は受け取り方式として、宅配以外にStore Pickupが選べるようになる。



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上記は筆者のAmazon.comで表示したページである。住所がニューヨークに指定してあるので、同エリアに受け取り店舗を登録している出品者のみ、右側の宅配選択タブにStore Pickupが現れる。


出品者視点でのLocal Sellingの恩恵は、店舗誘導効果と配送料の削減である。これまで、出品者のAmazon出店のメリットは最大認知度のECモール上で、全国・全世界を相手にビジネスができるという点であったが、配送対応コストとともに、リアル店舗への来店顧客を食われてしまう(半分くらいは被害妄想と筆者は考えるが)ことだった。Local Sellingによって、チェーン小売店はAmazonの売上面をキープしつつ、各店舗に受け取り需要という来店効果を得ることが出来る。一店舗だけのローカルビジネスなら、商圏顧客の無用な宅配要望を減らし、来店からのクロスセル効果も期待できるだろう。

消費者視点で言えば、最大の恩恵は入手スピードである。商品にもよるが、Local Sellingでの受け取りは即日 or 翌日が可能になる。ちなみに、アメリカのAmazonはプライム会員であっても配送に数日かかるのは当たり前であり、2日以内配送のためには特急料金を支払わなければならない。こういった背景からも店舗PickUpの需要は多いのである。


ここまで書いてピンと来る方も多いと思うが、このLocal Sellingは事実上、Amazonが提供するBOPISプラットフォームである。Walmartなどの大手が行うオンライン購買と店舗ピックアップ連携の仕組みを自社で構築するのはなかなかに大変である。まして地域の中小リテイラーならば巨額のシステム投資は不可能に近い。Amazon Local Sellingを使えばすぐにBOPIS機能を使えるようになる。


Amazonは、実は2019年にCounterというサービス名でこのピックアップサービスをテストしている。同テストでは、全米3番手のドラッグストア、Rite Aidの店舗網が活用された。当時はAmazonが医薬品ビジネスに本腰をいれたというニュアンスのほうがニュース性が高かったのだが、今回のLocall Sellingの発表によって、Amazonは様々なリテイラーと提携してピックアップ拠点の拡充をすすめ、いわばBOPISエンジンの機能を提供する姿勢が見えてきた。TechCrunchによると、今回の発表で明らかになったLocall Sellingのパートナーは、マットレスチェーンのMattress Warehouse、家電アウトレットのSears Hometown Store、 カー用品の4WP、そして既に自社でBOPISを実践している家電販売大手のBest Buyなど。Amazonからの明確な提携店舗リストの発表はないが、家電や寝具といった大物を取り扱うチェーンストアとの提携に力を入れているようである。


BOPISは、伝統的店舗がAmazonに対抗すべく作り上げたサービスであり、自社の店舗ネットワークに顧客を誘導し囲い込むための差別化でもある。巨額なIT投資が必要になるため、実践できる企業は限られる。ここに来てAamzonは中小でも参加できるBOPIS提供を開始し、いわばBOPISの民主化に着手した形である。ここのところWalmartなどの伝統的小売勢に押されていたAmazonだが、反攻の狼煙が上がり始めている。

 
 
筆者注:
*BOPIS
Buy Online Pickup In Storeの略。オンラインで購買し、店舗で受け取るサービスの総称。eコマースへの対応が遅れ、AmazonなどのECモールに押される量販店が差別化の一環として始まったが、今では小売DXの本流とも言えるサービス形態。
参考情報:
BusinessWire(2021), Today at Amazon Accelerate: Amazon Launches New Local Selling Capabilities to Help Small Businesses Grow by Reaching More Customers in Their Area, retrieved from
https://www.businesswire.com/news/home/20211021005822/en/Today-at-Amazon-Accelerate-Amazon-Launches-New-Local-Selling-Capabilities-to-Help-Small-Businesses-Grow-by-Reaching-More-Customers-in-Their-Area
Techcrunch(2021), Amazon rolls out in-store pickup for products ordered from local retailers, retrieved from https://techcrunch.com/2021/10/21/amazon-rolls-out-in-store-pickup-for-products-ordered-from-local-retailers/
Amazon(2021), AMAZON LOCAL SELLING — Grow your business with local selling, retrieved from
https://sell.amazon.com/programs/local-selling

 

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