NETFLIXは4度のDXで頂に立つ 3
NETFLIX 4度目のデジタルトランスフォーメーション
NETFLIXはその創業の段階で、DVD郵送レンタルで店舗型ビデオレンタルビジネスを破壊した。
次いで、定額支払い、すなわちサブスクリプションの導入によって延滞料の概念を取り払い、レンタル全般のビジネスモデルを刷新し、「コンテンツを購入しない」という選択肢を消費者に植え付けることに成功した。
さらに、ビデオ・オン・デマンド(VOD)によって、番組表でスケジュール化されたテレビ番組の広告収益モデルを破壊し、「観たいときに観る」という提供価値を確立している。
以前にも述べたように、NETFLIXは創業当時から常にDXによって自己変革しながらサバイブしているのだ。実際、3つ目のDXであるVODは道半ばであるが、大手のメディア・コングロマリットが追随している段階で、ホームエンタメの市場構造は確実に変化したと言えよう。
そして彼らは4つ目のDXにチャレンジしている。それは一見、オリジナルコンテンツを新しいスタイルで作り上げる、新型コンテンツメイカーへのチャレンジのようにも見える。しかし、それは本当だろうか?
アメリカのメディア・コングロマリット
NETFLIXが現在進行中のDXチャレンジを語る前に、アメリカのメディア・コングロマリットについて触れておかなければならない。
メディア・コングロマリットとは、複合型メディア企業を意味し、メディアグループとも呼ばれる*1。すなわち、エンターテインメント・コンテンツを制作し、その流通網となる映画館、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などの主要メディアを配下に置く、コンテンツ流通の川上から川下までのひと揃えを保有する企業グループのことである。アメリカの場合、もっとも伝統的メディアである映画のコンテンツ制作業界 —― UniversalやFOX、ディズニーなど――がその頂点を占めるケースが多かったが、少しずつ形態を変えている。例えば、現在アメリカでBIG4と言われているメディア・コングロマリットは以下の通りである。
・コムキャスト(ユニバーサル、NBC)
・ウォルト・ディズニー・カンパニー (ディズニー、FOX エンターテインメント、ABC)
・バイアコムCBS(パラマウント、MTV、ニコロデオン、CBS)
・AT&T (ワーナーブラザーズ、TBS、CNN、Direc TV)
いずれも「ひと揃え」を持っているのだが、ご覧の通り、必ずしも映画配給会社が筆頭になっているわけではない。
例えば、コムキャストはアメリカ最大のケーブルテレビ(CATV)ネットワークである。もともと、ペンシルバニア州のローカル企業だったが、テレビとインターネットのラストワンマイルを握るCATV業界の隆盛によって勢力を拡大し、2009年にはとうとう地上波BIG4の一角であるNBCユニバーサルを買収してしまった。近年ではイギリスの衛星放送大手のSkyを買収(2018年)している*2。
ウォルト・ディズニーは誰もが知っている「アニメコンテンツの王」であるが、1995年に地上波BIG4のABCを、2019年にはFOXのエンターテインメント部分を買収完了(Fox Newsは引き続きニューズ・コーポレーションに所属)。自動的に映画配給の21世紀FOXを傘下に入れた*3。
バイアコムCBSはその名の通り地上波BIG4のCBS系列である。もともとCBSの制作会社だったが、1971年にスピンオフ。CATV上の専門チャンネルで名を馳せた音楽のMTVやアニメのニコロデオンを傘下に入れ、1994年には映画配給会社のパラマウントを買収。そして、1999年にはとうとうかつての親会社CBSを買収した*4。
AT&Tはテレコム企業の最大手。2018年に映像配給会社にしてCATV大手のタイム・ワーナーを買収し、同時に地上波のTBS、そしてあのHBOも傘下に入れた*5。
アメリカのメディア・コングロマリットの状況を把握するとお分かりかと思うが、映画・テレビを中心とした構造の主導権が徐々に通信インフラに流れ始めている。
NETFLIXはこの混沌の中、巨大企業群による怪獣大戦争に囲まれながら、独立系としてのサバイブを試みているのである。
Amazonという大怪獣の本格参戦
この混沌とした構図の中に割って入ってきたのが、アメリカ小売業永遠の二位Krogerを抜き去り、帝国Walmartに肉薄するAmazonである*6。前回のコラムで述べたが、Amazonが本格的にVODに参戦したのは2006年であり、当初はAmazon Unboxという名前だった。その前年にはYouTubeが創業(後にGoogle配下)しており、同年にはiTune Movie Storeが始まっている。すなわち、Facebookを除くGAFA達が一斉にVODに乗り込んできたタイミングで、NETFLIXもVODに参戦している。
さて、消費者製造コンテンツCGM(Consumer Generated Media)に軸足を取るYoutubeはさておき、いわゆるプロの映像コンテンツを配給するVODで現在トップに君臨するNETFLIXを脅かす存在の一つがAmazonであることは疑いのない事実だろう。実際、NETFLIXは常にAmazonとの直接対決を避けてきた経緯がある。以前のコラムで述べたように、DVD販売では以前提携もしている。実際、Amazonがテレビ視聴用セット・トップ・ボックス(STB)であるAmazon Fireシリーズの第1世代をリリースした時点(2014年)から、NETFLIX対応となっている。ちなみに、NETFLIXの盟友であり、アメリカでのテレビVODプラットフォームとしてAmazon Fire TVとシェアを二分するRokuは2008年にリリースされている。
NETFLIXはそのVOD開始当初からテレビスクリーンの支配を考えていたが、Amazonはしばらくの間パソコンのブラウザの中での視聴を主体としていた。AppleもYoutube(Google)もまた然りである。NETFLIXだけが直接的にテレビスクリーンを抑えに行くことができたのは、RokuというSTBとともに、ビデオレンタル時代の資産でもある圧倒的なVODコンテンツ在庫を保有できたからである。結果として、Amazon Prime Videoの無料配信が始まっても(2014年)、NETFLIXはその地位を確保し続けた。むしろAmazonにとって重要なコンテンツ配給者としての地位を確保している。NETFLIXがメディア・コングロマリットという大怪獣に囲まれ、Amazonという新怪獣が登場しても生き残ることができたのは、テレビという自らの土俵と豊富なコンテンツ資産(借り物だが)とVODをつなぎ合わせ、迅速に一点突破したからに他ならない。
コンテンツメイカーとしての台頭
先述の様にAmazonはNETFLIXにとっての重要な顧客(Amazonで無料提供されているNETFLIXコンテンツは、AmazonがNETFLIXに支払っている)である一方で、最大の競合。両社のSTB(Rokuとfire TV)のシェアは2020年現在拮抗*7しており、まるで右手で握手して左手で殴り合うような状況である。そして、Amazonが無料配信をしている段階で、NETFLIXはかなり分が悪い。
NETFLIXもこうなることはわかっていたようで、コンテンツメイカーとしての競争力を得るための先手を打っている。NETFLIXが最初にオリジナルを提供したのは2012年の「リリ・ハマー」というコメディが最初となるが、翌年の2013年、アメリカ大統領候補の陰謀を描いた壮大な政治ドラマ「ハウス・オブ・カード」で名声を得た。映画「セブン」で名を馳せたデビット・フィンチャーを監督に迎え、同作が出世作となったケヴィン・スペイシーを主役に据えた大作映画さながらのキャスティングで世に出されたこのドラマは、まさにハリウッドとテレビの境界線を無くしてしまい、VODコンテンツ初のエミー賞(テレビドラマの最高峰を決める賞)を獲得した。また、同作は、開始当初からシーズン2までの配給が確定しており、総額1億ドルというメジャー映画級の予算が組まれていた。これに呼応するかのようにAmazonは4月、同社独占配信番組として、カナダの制作プロダクションと制作したAnnedroidsという子供向け番組を打ち出す*8のだが、先のハウス・オブ・カードの衝撃に比べれぱっとしなかった。同年9月にTransparent*9でゴールデン・グローブ賞を受賞することでなんとか面目を保った。
NETFLIXがVODリリース当初から飛び出すことができたのは、皮肉にもAmazonの影がある。そもそもAmazonは1998年、すなわちNETFLIX創業の翌年に、映画のデータベースサイトであるIMDb.comを買収している。Amazonは創業直後から、映像コンテンツへの展開を視野に入れていたのである。さらに、2008年に21世紀FOXと共作でStolen Childという映画(日本未公開)をリリースしており、2010年にはAmazon Studioという映像制作部門を設立している。同部門は企画や脚本を広くオンラインで募集し、各種持ち込み企画を受け入れ、Prime Video独占配信の番組や映画を制作する仕組みを構築した。先述のTransparentはもとより、映画第一弾としてスパイク・リー監督のChi-Raq(2015年)を世に出している。NETFLIXにとってAmazonとの全面対決は創業当初から時間の問題であり、彼らの影に怯えながら常にニッチかつフロンティアの市場ポジションでリードし続け、常にAmazonに先んじることで交渉優位性を意識的に保とうとしていたのは間違いない。ともあれ、AmazonとNETFLIXはほぼ同時にコンテンツメイカーとしてのポジション取りに突入した。
MVPD、コードカッティング、OTT、そしてネット中立性
アメリカのホームエンタメを牛耳ってきたCATV産業が未だ力を持っていることは、コムキャストやバイアコムがメディア・コングロマリットの筆頭に名を冠していることでも明らかである。衛星放送を取り込むことで成長を遂げ、MVPD(Multichannel Video Programing Distributor:多チャンネル動画配信業者)という新しい分類を生み出し、そこにインターネット回線までを盛り込むことで、支配的とも言える世界を作り上げた。CATVの牙城がほころび始めるのは、2000年頃のネットバブル崩壊とこれに伴う規制緩和である。2000年以前、CATVやテレコム回線の企業は、一部大手を除き、各州のローカル企業が分散した形であったが、ネットバブル崩壊によって経営状況が悪化、統合再編されることになった。すなわちCATVはコムキャストとタイム・ワーナー、電話回線会社はAT&TとVerizonに大きく寄せられることになるのだが、さらに、アメリカ連邦通信委員会(FCC)発表のブロードバンド政策綱領(2005年)によって、テレコム勢のテレビ番組参入に関する規制緩和が進んだ。この背景には、CATVが浸透しているが故に光回線化が進まず他国に遅れを取りはじめ、バブル崩壊の不況によって経済構造の再編成を急ぎたいアメリカの現状があった。別の角度から言えば、莫大な投資が必要な光回線敷設のためには、大型資本の力が必要であった。さらに、長年支配的なポジションを維持してきたCATVは、その高収益にあぐらをかき、顧客満足がかなり低迷していた。つまり、毎月定額料金を取られるのに、ネット回線は別料金で速くもなく、観たい番組は追加料金が必要、という顧客の不満が蔓延し、正当な競争環境を作るべし、という空気感があった。ともあれ、CATV業界のライバルはテレコム業界となり、両社が回線投資とコンテンツ充実を競う形でブロードバンド化は進み、インフラ屋から脱却してMVPDとなり、結果的にメディア・コングロマリット再編成をリードするに至った。
このCATV vs テレコムを顕著に表す言葉がコードカッティングである。端的に言えばCATVのコードを切ること、すなわち契約をやめることである。一人一台以上のスマホをもち、家にWifi常備が当たり前のこの時代において、CATVと電話回線代の両方を払う理由は小さい。まして、コンテンツ的に同等以上のものがテレコム側にあれば、CATVを繋ぐ意味もなくなる。この動きがコード・カッティングであり、CATVの契約をやめる人をコード・カッターと呼ぶ。このコード・カッティング現象自体はテレコム会社の優位性を物語っているが、実際はそれほどうまく行かない。AT&TはDirec TVやワーナーを買ってコンテンツ面でのコムキャスト勢に対抗しているわけだが、消費者はインフラに縛られるコンテンツ消費に不公平を感じるようになっていた。すなわち、Youtubeであり、Amazonであり、NETFLIXのように、どのインフラ上でも楽しめるコンテンツ配給サービスを支持するようになった。事実上、コード・カッターとは、CATVからテレコムへの乗り換えというより、コンテンツ閲覧を他のサービス—―AmazonやNETFLIXに依存するスタイルを指すようになった。このように、自らはインフラサービスを提供せず、他社インフラサービスの上に覆いかぶさるようにコンテンツサービスを提供する業態をオーバー・ザ・トップ(Over The Top:OTT)と呼ぶのだが、NETFLIXはそのOTTの代表格となった。
NETFLIXを筆頭とするOTTは市民に受け入れられた。競合OTTも大きく進展し、もはや家庭でレンタルビデオを借りることもなければ、地上波での映画放映を待つことも無くなった。消費者は観たい時に観るのである。こういったOTT台頭の中、CATVのコムキャストが意図的にOTT業者への割当回線スピードを遅くするというスキャンダルが明るみに出た*10。この事件によってネットワークの中立性*11問題が盛り上がり、長年の議論を経て、オバマ政権下の2015年に「ネットワーク中立性に関する規制(Open Internet Order)」が発足し*12、2016年には各MVPDのコンテンツがどのSTBでも観られるようにする「セット・トップ・ボックス開放規制(New Set Top Box Rules)」が発せられた*13。これによって、OTTは平等なコンテンツ配信環境を保証され、消費者はどんなインフラやSTBを契約していても、観たいコンテンツを見ることが可能になった*14。
コンテンツ制作、そして配信におけるDX
このように、NETFLIXを取り巻く環境は激変を続けた。テレビ業界と通信業界が競争しつつ融合するという現在の状況の中、NETFLIXはOTTの第一人者として君臨している。
同社による3回目のDXがVOD進出と述べたが、そのままでは怪獣大戦争を生き延びることは出来なかった。つまり、2007年のVOD進出から現在に至る中で、彼らは再びDXにチャレンジして生き残りを掛けてきたのである。はたして、彼らは何を変えたのか?
端的に考えつくのは、コンテンツメイカーへの転身である。VOD進出によって「観たいものを観たいときに観る」という価値を実現し、旧メディア企業から絶妙に抜きん出ることが出来たが、その背後には常にAmazonがあり、彼らとともにNETFLIXは抜け出した。一方、NETFLIX達の成功はメディア・コングロマリットの一斉VOD化に舵を切らせるだけでなく、コンテンツ版権価格の上昇も招いた。前面競争によって競合が増え、市場が大きく拡大する一方で、コンテンツの仕入れ価格は高騰し、利益逼迫は目に見えていた。NETFLIXらOTT勢が生き残りをかけるためには、オリジナルコンテンツの制作配信による利益確保と差別化が必須だったと言える。実際、旧メディアは2007年、即座に自前のOTTとしてHuluを設立(NBCユニバーサル、 ディズニー、FOXの連合。現在は67%をディズニーFOXが保有)し、NETFLIXへのコンテンツ配給価格を引き上げた*15。
NETFLIXはオリジナル・コンテンツ配給にあたって自らのビッグデータを活用している。先述のハウス・オブ・カードは、実はイギリスで過去にヒットした大作ドラマ「野望の階段」のリメイクであり、監督のデビット・フィンチャーが持っていた企画である。NETFLIXは彼に放映権獲得を売り込むために、精密な視聴者データ分析の結果を用いた。彼らの相関分析結果によれば、フィンチャー監督を一度観た人は関連作品をコンプリートしたがる傾向が強く、ケヴィン・スペイシー出演作も同じ傾向を持っていた。さらに、フィンチャーファンのほとんどが「野望の階段」に興味を持っているという分析結果である。これによって、フィンチャーはNETFLIXと契約し、NETFLIXはこの成功もあって、以後コンテンツ制作にビッグデータを活用していく。監督やプロデューサーの勘に頼らず、スポンサーや業界の政治的なパワーバランスにも左右されずに、視聴者が欲するテーマ、監督、出演者のキャスティングをビッグデータで割り出すことで、投資対効果が見え、視聴者が期待に胸踊らせるコンテンツを制作・配給するという仕組みである。彼らはコンテンツ制作の世界に新しいプロセスをもたらした。
さらにNETFLIXは、同ドラマから1シーズン分13話同時配信を実行している。通常のコンテンツは、新作は1話ずつ、毎週配信が基本である。その理由は、長期的にコンテンツの影響力を確保し、何度も自社サービスにアクセスしてもらう必要があるからである。従来型メディアの場合はこれによって広告枠を高く長く設定できるし、Amazonにとっては、複数回Amazonを訪問してくれることで買い物してくれる確率と回数を高めることができるからだ。NETFLIXは、顧客価値提供としての「観たいときに、観たいものを」の価値を守り続け、進化させた。少しずつでも、13話一気観でも構わない。スマホでもPCでもテレビでも構わない。いわば「コンテンツ消費の自由」という価値を提供している。先のコラムで述べた”NETFLIXED”という言葉の裏には、「四六時中動画を見て寝不足続出」という社会現象も含んでいる。このスタイルは、今の所NETFLIXの御家芸ともなっている。
消費者の「視聴の自由」に寄り添う挑戦
消費者は基本的に、観たいときに、観たいコンテンツを、観たい場所で観たい。観たいコンテツ「だけ」を観たいし、一番都合のいいタイミングで観たい。実現出来ない理由は技術の問題ではなく、供給側の都合でしかない。1話あたりの制作工数と時間がネックだったのは過去の話であり、今ではほとんど広告や販売促進などの収益モデルが理由である。何より、1シーズン13話同時配信が技術的に可能であることはNETFLIXが証明してしまったのだから。旧メディアは広告モデルを崩せず、AmazonはEコマースによる無料視聴コストの回収が必要である。
NETFLIXがこの配信側の論理から脱出するには、良いコンテンツの生産と配給の自由が車輪の両輪となる。サブスク負けしないコンテンツを配給し続けるためには、魅力的なコンテンツの質と量、そして独自性を担保せねばならないし、配信タイミングを著作権者やスポンサーに握られてもいけない。彼らは、自らのビッグデータで「喜ばれるコンテンツ」を「適切な消費者」にリコメンドし、消費してもらうためのプロセスを作り上げ、さらに、「投資対効果の高いコンテンツ制作」を実践してみせた。その背景にはビッグデータ、AIといったデジタル技術があり、長年培ってきた顧客分析のノウハウが存在する。
NETFLIXは「観たいものを、観たいときに観る」というVODの価値提供をコンテンツ制作と配信プロセスの変革でより魅力的なものに作り変えた。そして、今では全てのOTTが提供している「観たい場所で観る」、すなわち、デバイスフリーな閲覧も先陣を切って実行している。パパはテレビでゴルフ番組、ママはキッチンでドラマ、子供はソファの上でアニメを同時に一つのアカウントで利用することができる時代をNETFLIXは切り開き、「観たいものを、観たいときに、観たい場所(デバイス)で観る」という提供価値をホーム・エンターテインメント業界全ての必須条件に変えてしまった。すなわち、NETFLIXは、4回目のDXによってコンテンツ制作と配信の価値提供プロセスを作り変え、業界そのもののスタンダードを書き換えてしまったといえるだろう。今、ホームエンタメ全体がDXによる変革の真只中にあり、競合他社は競い合うようにOTTサービスを展開している。
コムキャスト(NBC Universal)はPeacockという自社OTTを持っているが、WalmartのOTTであるVUDU買収に動いている*16。バイアコムCBSは独立系OTTのPluto TVを昨年買収し*17、FOXディズニーはHuluに加え、こちらも独立系OTTのtubiの買収を画策しているという*18。Huluを含め、すでにすべてのメディア・コングロマリットが何かしらのOTTを保有しており、NETFLIX包囲網を形成している。
NETFLIXが提供する新しいコンテンツ視聴の価値は、言い換えれば「視聴の自由」に立脚しているといえる。このことは、小売業で起こっている「シームレスな消費」という言葉に集約されるだろう。これからの消費者は、デジタルでもリアルでも、好きなところで商品を選び、悩み、決済し、受け取ることができる。コンテンツもまた、同じである。そして、消費者がさらに求める自由は、NETFLIXに次の競争相手をもたらしている。
「死ぬほど見たい映画やドラマがあったらどうしますか? 夜更かしするしかないでしょう。つまり競争相手は睡眠。ここでも我々は勝ちつつあります!」*19
これがジョークなのか、または彼が睡眠管理のビジネスでDXを起こそうとしているのかは、今の所わからない。一つ言えることは、睡眠を削ってまで楽しみたいコンテンツは、映像の他にも存在する。彼らの次のDXは映像とは違うエンターテインメントに波及するのかもしれない。
引用情報:
*1
Wikipedia(2020), メディア・コングロマリット, retrieved from
https://bit.ly/2QXd9Lz
*2
Wikipedia(2020), コムキャスト, retrieved from
https://bit.ly/39qjYMc
*3
Wikipedia(2020), ウォルト・ディズニー・カンパニー, retrieved from
https://bit.ly/2ykrUBN
*4
Wikipedia(2020), バイアコム, retrieved from
https://bit.ly/2vYDy4l
*5
Wikipedia(2020), AT&T, retrieved from
https://ja.wikipedia.org/wiki/AT%26T
*6
NRF(3030), Top 100 Retailers 2019, retrieved from
https://nrf.com/resources/top-retailers/top-100-retailers/top-100-retailers-2019
*7
IMDb(2013), Annedroids, retrieved from
https://www.imdb.com/title/tt3012532/
*8
IMDb(2013), Transparent, retrieved from
https://www.imdb.com/title/tt3502262/
*9
Billboard(2007), Comcast Blocks Some Internet Traffic, retrieved from
https://www.billboard.com/articles/business/1317846/comcast-blocks-some-internet-traffic
*11
FCC(2015), FCC Releases Open Internet Order, retrieved from
https://www.fcc.gov/document/fcc-releases-open-internet-order
*12
FCC(2019), Television and Set-Top Box Controls, Menus, and Program Guides, retrieved from
https://www.fcc.gov/television-and-set-top-box-controls-menus-program-guides
*14, 18, 19
ジーナ・キーティング(2019), NETFLIX コンテンツ帝国の野望―GAFAを超える最強IT企業, retrieved from
https://amzn.to/39wGYZM
*15
Verge(2020), NBCUniversal reportedly close to acquiring Walmart’s Vudu video service, retrieved from
https://www.theverge.com/2020/2/21/21147837/nbcuniversal-vudu-acquisition-rumor-walmart-peacock-video-streaming
*16
Verge(2019), Viacom acquires Pluto TV streaming service for $340 million, retrieved from
https://www.theverge.com/2019/1/23/18194071/viacom-pluto-tv-acquisition-340-million
*17
Tubefilter(2020), Fox Looking To Acquire Tubi For Reported $500 Million, As NBCUniversal Sets Sights On Vudu, retrieved from
https://www.tubefilter.com/2020/02/24/fox-looking-tubi-nbcuniversal-vudu/筆者注:
*10
ネットワーク中立性
インターネット・ネットワークは特定の利用者や利権者のために意図的にコントロールされてはならないという考え方。
Wikipedia(2020), ネットワーク中立性, retrieved from
https://bit.ly/2Jt9CAk
*13
ネットワーク中立性のアメリカでの議論
ネット中立性関連のルールはトランプ政権下で白紙に戻されるリスクが常に取り沙汰されているが、今のところは鳴りを潜めている。
WIRED(2017), 米国から「ネット中立性」が消える日がやってくる──FCCと通信業界の攻防、その論点を振り返る, retrieved from
https://wired.jp/2017/11/23/plan-to-gut-net-neutrality/