Amazon Fire TVがRokuを抜いてトップへ。米国ビデオストリーミング世帯は50%を超えるか

AmazonのFire TVが、とうとうアメリカのオンデマンド視聴デバイスのトップの座を獲得した。Techcrunchによると、この1月、これまでトップを走り続けていたRokuの3230万を越え、4000万ユーザーに到達したという発表があったという。

実際、これまでの米国においてビデオストリーミングといえばRokuというほど浸透率は高い。アメリカは多チャンネル文化で、これを牽引していたインフラはケーブルテレビ(CATV)である。実際、アメリカは電波受信状況があまり良くない。広大な土地面積に加え、気象条件などの様々な理由で、電波が届かない事が多い。都市部で多い古いアパートは屋外アンテナの配線すら来ていないので、脆弱な室内アンテナに頼るしか無い。ここでCATV網が活躍することになり、多くのアメリカ人は毎月$50程度のCATV料金を支払うことでTV番組を楽しんできた。さらに、アメリカで無料地上波で見られる番組は限られる。正確に言えば、面白い番組はCATV経由で課金しないと見られないことが多い。この理由の一つは、CATVからテレビ局への上納金(コンテンツ配信料)である。日本がそうであるように、基本的にテレビ視聴は無料だ。テレビ局はスポンサーからの広告費で賄うしかない*1。テレビ局にとって奇しくもCATVは重要となったわけだが、同時に「面白いテレビには相応のお金を払うべし」という文化も牽引してきた。Sex and The CityやGame of Thronesで有名なHBOがその代表格であり、スポーツ専門のESPNもその殆どがCATV経由で提供されている。

 

 

しかし、ビデオストリーミングの台頭によってCATVはどんどん衰退している。CATVや衛星放送などの有料テレビ受信をやめる人達のことはコードカッターと呼ばれるが、その比率は年々上昇している。統計情報サイトのStatistaによれば、コード・カッターは2015年で16%だったが、2018年には25%まで上昇。有料契約を見直して縮小するコード・トリマーは18%から27%へ、一度も契約をしたことのないコード・ネバーも5%から8%に上昇している*2。その理由はもちろん、YoutubeやNetflix、Huluの台頭にほかならない。

PCではなく、家庭用テレビで無料の地上波を見ながら、自分が見たい映画やスポーツ中継だけを見る。ネット回線は、CATVとのセット提供よりもっと早くて安いものを契約する。見たくない番組を含めてCATVに定額料金を払うなんてばからしい。ビデオストリーミングによるコンテンツ視聴がテレビ配信と遜色なくなり始めた10年ほど前から、若い世代を中心に、この風潮はつづいている。

Rokuはビデオストリーミングを可能にする外付けデバイスで、創業は2008年。CATVより安く、圧倒的に使いやすい操作性が売りである。デバイスは$29.99、 $39.99、 $49.99の3タイプから選べ、上位機種は4K、HDRに対応。月額利用料は無料である。多種多様なチャネルを有料もしくは無料で見ることができ、NetflixやHBO、Apple TVやGoogle Playはもちろん、ライバルのAmazon Prime Videoも視聴可能。最近ブランド名が変わったRakuten TVも存在感を出している。

AmazonのFire TVがリリースされたのは2014年。日本でも展開されている通り、Prime Videoを中心とした有料無料のラインナップを提供し、もちろんNetflixなどのサードパーティコンテンツも資料も可能。月額$12.99(日本では500円)が必要だが、Prime会員は無料である。デバイスの最低価格帯はRokuと同じく$39.99、4K対応は$49.99、最上位機種でAlexa内臓のFire TV Cubeは$119.99である。

後発のAmazonがRokuとの差を約5年で埋めた背景として、もちろんAmazon Prime会員数販の伸びによるところは大きい。しかし、RokuでもPrime Movieは見ることが出来るので、Roku ユーザーがスイッチする必要はほぼない。最大の成長理由は、コード・カッター層の拡大に伴う新規獲得であることは間違いないだろう。

Rokuは2019年11月の第3四半期報告会で、3230万のアクティブユーザー数を発表。コードカッターの約50%が顧客であると述べた。2018年の同発表では2380万のアクティブユーザーと発表されていたので、前年比135%の成長である3。Rokuもまた、伸びているのだ。
アメリカの総世帯数は2019年の統計で約1億2800万世帯
4なので、両社間の合計ユーザーは7380万人で、多少のユーザー重複はあるにせよ、世帯の56%を占めることになり、先述のコード・カッター、コードトリマー、コードネバーの総数(約60%)に近似する。

たしかに、Fire TVの伸びは驚異的であるが、これはRokuの苦戦の始まりを表すものとは一概に言えないであろう。確実に言えることはCATVの衰退だが、その背景にはネット隆盛に伴う通信会社の躍進、そして家計コスト配分のネットへのシフト、そして、テレビ局以外のコンテンツメーカーの存在感拡大である。Netflixの大成長はアメリカのテレビ業界の構造がインターネットによって変革を始めていることを代弁している。CATVからの配信料という大きな収益源を失ったテレビ局は、広告以外の収益源をRokuとAmazonにシフトせざるを得ないが、ここに来てNetflixやHBOと真っ向から戦う、コンテンツメーカーとしての価値が問われ始めている。アメリカのマスメディアはDX待ったなしの状況まで来ている。

 

筆者注:
*1
公共放送を含め、受信料を収益源とする地上波テレビ局はアメリカには存在しない。ちなみにアメリカで公共放送と言われているのは、セサミストリートで有名なPBS、「アメリカの声」として知られるVOAのみ。公共ラジオとしては国内向けのNPR、国際発信向けのRadio Free、そして世界各国の駐在米軍向けのAFNである。

引用情報:
*2
Statista(2019), Share of pay TV subscribers in the United States from 2015 to 2018, by type, retrieved from
https://www.statista.com/statistics/497267/share-pay-tv-nonviewers-cord-cut-never-usa/
*3
Codecutters.com(2019), Roku subscribers and earnings, retrieved from
https://www.cordcutters.com/rokus-earnings
*4
Statista(2020), Number of households in the U.S. from 1960 to 2019, retrieved from
https://www.statista.com/statistics/183635/number-of-households-in-the-us/

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