百貨店の変革―――モノを売らない百貨店SHOWFIELDSが今夏日本進出

ニューヨーク発の「売らない百貨店」を運営するSHOWFIELDS(ショーフィールズ)が今夏にも日本に参入する。ショーフィールズはデザイン指向で革新的な、型にはまらないブランド、アーティストを結集している。従来の百貨店とは異なり、商品を買ってもらうことではなく、顧客の商品の体験やエンターテイメント性を重視しており、東京都の原宿や銀座、表参道を出店候補地とし、主にネット通販に特化したD2Cブランドに出店を募るという。出店料と顧客の来店データが主な収益源で、店内に設置されたAIカメラで顧客の滞在時間や商品への関心度合いなどの行動分析をする*1。


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出典:SHOWFIELDS(2021), https://showfields.com/pages/about-us


アメリカではニューヨーク州とフロリダ州に店舗がある。ニューヨーク店ではレンガ造りの趣のある建物一棟全てがギャラリーとなっており、壁にアートが飾られていたり、いわゆるインスタ映えのするような美しい売り場レイアウトがされていたりと、アートとコマースを統合することで没入型の体験や優れたサービス・新たな発見を通して顧客のショッピング体験を再考することをミッションとしている。ブランド紹介ブースでさまざまな体験をしたり、アートを見て楽しんだり、カフェで一息つくことが可能だ。百貨店というよりも、テーマパークに近い印象を受けるかもしれない。

ショーフィールズが掲げるRaaS(Retail as a Service:サービスとしての小売)というビジネスモデルは、効果測定やオペレーション・決済管理のインフラと店舗をセットにしてメーカーに提供するプラットフォームともいえるもの。基本的に、伝統的小売業の基本モデルである「仕入れた商品に利益を載せて売る」から、「商品に接触し、デジタルの購買導線に乗せるまでのショールームおよび送客導線としての機能」に集中している。D2Cブランドの隆盛によって2016年頃からポップアップストアの需要が急増したが、この場合、ブランド側が不動産からスタッフ確保までの店舗運営機能一式を揃えなければならない。しかし、RaaSならば全てコミコミの定額で出店が可能になり、行動データも取得できる。同じRaaSモデルで2020年夏に日比谷に上陸したb8ta(ベータ)はガジェットや雑貨中心であり、その日本法人は丸井グループ、カインズ、三菱地所の出資を受けている。一方のショーフィールズは、主に都会に生きる女性をターゲットとしており、ビューティー用品やデザイン雑貨、アパレルなどが主体だ。こちらは双日の出資を受けている*2。


一方、日本でもモノを売らない店舗の取り組みが増えつつある。西武渋谷店に入っているメディア型OMOストア「CHOOSEBASE SHIBUYA(チューズベースシブヤ)」では、「意味に出合い、意志を買う」をキャッチコピーに、食品からデザイン雑貨やビューティー用品、服などが展示されている。素材にこだわったお菓子のサブスクリプションサービスを提供する「snaq.me(スナックミー)」やヴィーガンスキンケア「BEIGIC (ベージック)」などのブランドが商品を展示している。

ショールームエリアではオーダーメイドのビジネスウェアブランド「FABRIC TOKYO」や働く女性のためのオーダーウェアブランド「INCEIN(インセイン)」を展開しており、採寸や提案などの購買体験を提供する。事前に予約も可能だ。「FABRIC TOKYO(ファブリックトウキョウ)」では事前に専用アプリに自分の採寸情報を入れておき、予約をすることで、来店時にスムーズに自分にとって最適な一着を提案してもらえる。


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出典:CHOOSEBASE(2021), https://choosebase.jp/


他にも大丸東京店でモノを売らない体験スペース「明日見世(asumise)」が昨年10月にオープンしたり、丸井グループが2026年3月期までに売り場面積の約3割を「売らないテナント」に転換する方針を決めたりと、百貨店の変革は進む*3。

新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)の影響による外出自粛や休業、時短営業、インバウンド需要の低下によって百貨店は苦戦を強いられた。山形県の大沼や、アメリカのヘンリ・ベンデル、ロード&テイラー、バーニーズニューヨークなど、倒産した大手老舗百貨店も多い。

開店から75年を迎えた松山三越も、感染症対策に加え、フォトサーベイによってフロアの構成を入れ替えたり、新たに高級ホテルを最上階に入れたりなどさまざまな試みを取り入れている*4。

百貨店といえばモノを買う場所だった。しかし、消費の中心が実店舗からネットへ移行しつつあり、従来の百貨店のあり方にこだわってもいられない。ECは便利だが、実物がどんなものか触って確かめられないという欠点もあった。購入前に手に取って確認できるというのは紛れもなく百貨店の強みだろう。加えて、そこでしかできない体験を提供することで、新たな百貨店の価値提供ができるはずだ。

 

参考情報:
SHOWFIELDS(2021), https://showfields.com/ CHOOSEBASE(2021), https://choosebase.jp/
引用情報:
*1
日本経済新聞(2021), 「売らない百貨店」日本へ 米ショーフィールズ今夏参入, retrieved from https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC215GL0R21C21A2000000/
*2
WWD(2021), NY発のD2C集積売り場、ショーフィールズが22年夏に日本上陸 双日が出資, retrieved from https://www.wwdjapan.com/articles/1309012
*3
日本経済新聞(2021), 丸井「売らないテナント」3割に 商品体験、ネットと共存, retrieved from  https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC079RQ0X00C21A7000000/
*4
NHK(2021), どんなデパートなら通いますか? ~地方デパートの革新~, retrieved from https://www.nhk.or.jp/matsuyama/insight/article/20211228-1.html

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