“既存小売のamazon化”というDX―――Fabricが提供するマイクロ・フルフィルメントセンター
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マイクロ・フルフィルメント・センターという言葉が流行り始めている。主に都市部にある小さなスペースをフルフィルメント拠点(配送センター)として活用することであり、街中の小規模倉庫再活用がベースとなっている。

Amazonを中心に活況を続ける小売配送の現在の争点は、いわゆるラストワンマイル配送分野である。より宅配需要が集中する都市部でいかに物量をさばくかで、売上が左右されることになる。筆者は数年間ニューヨークで暮らしていたが、その時は日本の物流サービスのすごさを改めて感じたものだった。

「注文したものが事故なく、期日中に送り届けられる」

ただこれだけのことだが、これを実現できる国はそうはない。この話をすると、よく、日本人の勤勉さや配送員の優秀さなどが引き合いに出されるのだが、実際その部分は大きいと思う。が、技術と戦略によって、この差別化ポイントは過去のものにされていくだろう。その技術の一つが、マイクロ・フルフィルメントである。

 

前回のニュース*1でも報じたが、Walmartは一部自社店舗をフルフィルメント・センターに改造して、より高速で多様な宅配需要への対応を急ピッチで進め、Amazon Prime Now・Freshへの対抗姿勢を明確に示している。そのフルフィルメント技術を担っていると目される企業の一つがFabricである。

 

Fabricは2015年にテルアビブで設立されたロジスティクス専門のスタートアップで、eコマース注文から1時間以内での配送を実現するマイクロ・フルフィルメント・センターの構築と運用に必要な技術を提供する。彼らの差別化技術にはいくつかのポイントがある。

まず第一に、柔軟な機器構成によって、様々な不動産ロケーションのフルフィルメント・センター化が可能であること。

配送センターに必要な機能は倉庫機能と、在庫品を出荷待ち、すなわち配送先や依頼業者単位でトラックに積める状態にするピックアップ機能に大別されるが、倉庫機能に関して、天井の高い倉庫なら在庫を多く詰めるが在庫回収に手間がかかり、横に広ければ倉庫面積が必要となる。まして、都心部のロケーションで、倉庫や集配に向いている建物などそうは存在しない。ピックアップ機能に関しては、基本的にベルトコンベアのスペースありきで設計する必要がある。Fabricはさまざまなコンポーネントを組み合わせることで、さまざまな倉庫形態を作ることができ、かつ、ロボットカートを活用して、ベルトコンベアの必要性を最小限に抑えることができる。すなわち、あらゆるロケーションをフルフィルメント・センターに変えることができる。

第二にこれらを制御するオールインワンの管理ソフトウェアの存在である。多くの場合、在庫管理ソフトとロボット制御ソフトは別物であり、何らかの統合開発が必要である。また、倉庫の形態やピックアッププロセスはロケーションごとに特殊な場合が多く、複数のソフトウェアをつなぎ合わせるのはもちろん、独自開発も必要になる。Fabricは自社倉庫モジュールとロボットカートをシームレスに制御するソフトウェアを提供する。

 

Fabricが提供するサービスは、都心の地下駐車場や空きビルでさえも配送センターに変える力を持っている。また、ストレージ専門で使っていた店舗倉庫を、eコマースからの注文出荷を受け付ける配送センターに転換することも可能である。言い換えれば、マイクロ・フルフィルメント・センターの技術を用いることで、Walmartを始めとする店舗型小売業者は自らの店舗資産をつなぎ合わせて巨大な仮想倉庫を作り出すことも可能であり、同時に都心部に配送拠点を持つことができればラストワンマイル配送のコストを抑えることができる。

 

Fabricによれば、特に生鮮や日用品のeコマースに自前で対応すれば、一注文あたり5ドルから15ドルの赤字が生じるという。このため、多くの場合instacartなどのラストワンマイル配送ベンダーに業務委託するのだが、長期的に見ればデジタル適応による小売業の成長を妨げることになり、結果、配送ベンダーに利益を奪われ続け、Amazonなどの巨人にシェアを奪われ続けることになる。そして、eコマースジャイアントのような即日配送に対応できる配送センターやこれを提供するサービスはほとんど存在せず、自前で作るしかない。しかし、建設コストが安く、大量にさばける大型施設が必要として郊外にセンターを 建設すれば、結局配送料が高くついてしまう。これを打破するためのアプローチが自動化+都市型のマイクロ・フルフィルメント・センターである、というのが彼らの主張である*2。

実はこの試みは、中国で行われている「店倉合一」や「前置倉」方式とほぼ同じコンセプトである。

店倉合一はアリババ系の盒馬鮮生(Freshippo)などに代表されるモデルで、リアル販路とeコマースの倉庫を一体化したもの。すなわち巨大な倉庫兼店舗を構え、消費者はリアル・デジタル両方の手段で生鮮食品をその店舗から入手する事ができる。つまり、eコマースで購買する場合、消費者はeコマース店舗の在庫ではなくリアル店舗の在庫にアクセスする。

一方の「前置倉」とは小型倉庫を市街地に細かく配置し、冷蔵車による拠点間輸送とラストワンマイル配送を組み合わせた生鮮コマース専門の方式で、毎日優鮮(Missfresh)などがこれに当たる。

 

Fabricが提供するのは店舗の一部をEC配送センターに対応させる「店倉合一」、そして都市部に配送拠点を置く「前置倉」両方のモデルを組み合わせた配送網の実現である。実際、「前置倉」モデル単体は近距離配送+高単価が成立する都市部でしか成立しないモデルとされ、かつ、大型の中央流通センターの設置と精密な流通網の設計が必要である。一方の店倉合一は、店舗の数だけ配送センターと販路を同時に増やせるメリットはあるが、最新鋭のOMOハイブリッド店舗を完全新規設計で構築しなければならない。そして、どちらも初期費用は莫大である。

 

Fabricが提供するマイクロ・フルフィルメント・センターの技術は、既存店舗や都市部の空き不動産を有効活用して「店倉合一」「前置倉」の利点を活かすアイディアといえよう。

 

ともあれ、あと数年で、即日配送は当たり前になるかもしれない。それは、Amazonの専売特許が消え去ることを意味している。

 

引用情報:
*1
DX Navigator(2021), Walmart、2時間配送のExpress強化 --- Amazon Prime Nowに正面から対抗, retrieved from

*2
Fabric(2020), How Micro-Fulfillment Can Resolve Online Grocery Retailers’ Cost Margin Crisis, retrieved from
https://getfabric.com/resources/how-micro-fulfillment-can-resolve-online-grocery-retailers-cost-margin-crisis/

参考情報:
Fabric
https://getfabric.com/

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