コロナは「DX」を加速したのか?2020年の国内外DXトレンドを振り返る:前編

コロナ禍で世界経済がこれまでにない苦境を見せる中、DXは未来への重要なキーワードとなっている。新型コロナウイルス(COVID-19)という未知の疫病は日本経済を死に至らしめるのか?それとも、新しい免疫をもたらし、未来への進化を促しているのか?
2020年のコロナ禍でDX Navigatorで取り上げた国内外のDXトレンドを振り返りたい。

新型コロナウイルス(COVID-19)対策に国内が団結

[中国] 2020-02-13
中国主要ECプラットフォームが連携してマスク高騰抑制−コロナウイルス対策に国内が団結

https://dx-navigator.com/2020/02/13/chinese-e-commerce-platforms-restrain-mask-price-spikes/

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2019年末に中国湖北省武漢で確認された新型コロナウイルス(COVID-19)の感染者は、感染元である中国国内で急速な広がりを見せた。AFP通信によると中国当局が初めて発表した公式な数字は2020年1月9日の時点で59人だったがわずか1ヶ月後の2月10日には40,000人を上回る感染者が世界中で確認されており*1、11日に死亡者は1000人を越えた*2。その90%以上は中国国内である。
日本でも発生しているマスク価格の高騰が、中国国内でも大きな問題として浮上した。

これを受け、中国国内の主要ECモールや大手フードデリバリー企業は、マスク価格の釣り上げ禁止や、本物を販売する業者には補助金を提供するなどの適正な価格で偽物ではないマスクが販売されるよう対策を発表した*3。

 

オンライン医療の波がより本格的に動き出す

 

[中国] 2020-03-24
オンライン医療のWeDoctor、満を持してIPOか(中国:香港)
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社会と経済が打撃を受ける中国で、オンライン医療プラットフォームのWe Doctor(微医)の上場がほぼ正式に確定した。上場先は香港証券取引所である。
杭州で創業したWeDoctorは、2010年設立、当初はGuahao.comという名前だったが、Tencentによる買収からWeDoctorに社名を改名した(ドメインサービスとしてはGuahao.comを継続)。漢字表記では、WeChatの中国名「微信」になぞらえ「微医」となった。彼らはいわゆる病院検索ポータルからスタートしているが、そのメインビジネスは遠隔医療プラットフォームの提供にシフトしている。
遠隔医療は主にスマートフォン上のアプリで行われWeChatとも連携している。自分の症状を入力し、スマホ上で医師の診断を受けることができる。

中国のリサーチ会社、Equal Oceanによると、当初2020年の中国のオンライン医療市場は158億元と推定されていたが、コロナ禍発生によって2,000億元(290億米ドル)近くになると見られるという*4。

 

[アメリカ] 2020-04-30
Amazon Care、シアトルで市場テスト開始。新型コロナウイルス対策のため前倒し導入か?

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Amazon Careは簡単に言うとAmazon版オンライン診療サービスである。専用アプリをダウンロードし、様々な医療相談や応急ケアを受けることができ、処方箋や薬の自宅配送、在宅医療の受付も可能になる。
そのAmazon Careは3月24日、シアトル市内でのサービス展開を急遽発表した*5。そして、その目的は新型コロナウイルス(COVID-19)のテストキットの配布とデータの収集が主目的であり、シアトルのコロナウイルス調査ネットワーク――Seattle Coronavirus Assessment Network (SCAN)と提携して行われるという。
Amazonはシアトルにおける遠隔医療オペレーションを通じて、様々な法規制と伝統的医療スキームによって硬直した現状を変える何かを掴むだろう。もちろん、診療データも、である。現在、世界中で電子カルテなどのMedi-Techが進められているが、各国の医療制度やカルテ共有という個人情報の取扱い、何より医療機関同士のデータ連携が進まず、大きな変革が頓挫しているのが現状である。中国もオンライン医療を中心として、国を上げた医療DXが進められているが、DXの本家でもあるアメリカ、そしてその国随一の巨人がここに来て大きな動きを見せている。

 

絶対的な非接触・非密集の条件がリテール業界にデジタルトランスフォーメーション(DX)を促すか?

状況は深刻になっていく一方で、従来の人から人へ受け渡すシステムやサービスに対し、非接触・非密集が絶対的な条件となるデジタルトランスフォーメーション(DX)が求められ、世の中の変化が加速していくことになった。

 

[アメリカ] 2020-04-06
東京オリンピック延期が日本にオンライン・チケット時代と無形のレガシーをもたらす

モバイルチケットが早くから浸透しているアメリカでは、公式チケットはチケットの購入から発券まで全てスマホ上でチケット表示する事が可能である。
日本のイベント・エンターテインメントの世界において、老舗のぴあ、ローチケHMV、イープラスを中心としたチケットのネットワークがあるが、スマホチケット化はなかなか遠い。東京オリンピックのチケット発券の全貌が明らかになるのは5月以降とされていたが、おそらく延期になるだろう。そしてこれは、不幸中の幸いなのかもしれない。

本記事では、アメリカと日本のチケッティング事情をDX Navigatorの切り口で紹介した。

 

[アメリカ] 2020-04-24
新型コロナウイルス下で爆発的に伸びる日用品デリバリーアプリ

アメリカ全土への新型コロナウイルス(COVID-19)の蔓延に伴って、食料品および日用品の配達アプリのビジネスが進展した。Techcrunchが報じるところによれば、InstacartやWalmart Grocery、Shiptなどのアプリダウンロード数が急速に伸びているという。
これまで多くの日用品デリバリービジネスが苦しんできた不在・再配達コストの問題が一気に解消されるかもしれない。ロッカーへの配送や玄関前の「置き配」が突如注目を浴び、むしろ提供価値に転化し始めている*6 。

 

[中国] 2020-04-28
中国のリテールは沈むか伸びるか?新型コロナ影響下からの未来展望

新型コロナウイルス(COVID-19)の最初の震源地である中国の小売業界は大きなシフトチェンジを強いられている。そして、それは必ずしも悲観的内容ばかりではないかもしれない。
Equal Oceanによれば、1月から2月にかけての中国消費財のオンライン購買は前年比で3%ほど伸びた。そして、その80%が「非接触型配送」であるという。COVID-19の被害が最初に直撃した中国は、最初にこれを乗り越える国になる可能性は高い。その中で様々な試行錯誤があり、ビジネス側も消費者側も、特別な状況下で特別な消費経験を経ることとなった*7。

 

[日本] 2020-06-11
「置き配」のOKIPPA、Rakuten Expressと提携

「置き配」の浸透が急速に進む。欧米ではAmazon専門の私書箱とも言えるAmazon Lockerがスーパーや大学施設内に設置され、自動車のトランクに配送する、FREE In-Carも開始されている*8。Panasonicなどの大手メーカーも宅配ボックスの販売を開始した*9。
そんななか、Yper(イーパー)社が提供する宅配バッグ「OKIPPA」を、楽天が提供する配送サービス、Rakuten Expressが採用するとの発表があった。今後、Rakuten Express利用者は、置き配指定にOKIPPAを選択することが可能になる。同社は既に、ヤマト運輸、日本郵便、佐川急便、Amazon配送各社の置き配配送箇所として認定され、配送追跡情報のデータ連携も実行中。Amazonや楽天、ユニクロ、ZOZOTOWNなど大手の置き配で既に利用されているが、配送先を「OKIPPA」と明示的に指定できるのはRakuten EXPRESSが初となる。
ヤマト運輸などでは、これまで必須だった印鑑やサイン認印を省略できるようになった。もともと「置き配」は不在再配送の件数を減らすことで配送員の作業コストを減らすとともに、荷物の確実な受け渡しを実現するための試み。COVID-19の影響で「非接触受け取り」という新しい社会トレンドが出現し、OKIPPAは今後大きく注目されるサービスとなるだろう。

 

[中国] 2020-06-26
チーズティがコロナ後のカフェ需要を変えるか ― HEY TEAの挑戦

現在、中国の若者の間で流行となっている「芝士茶」の中心的なブランドであるHEYTEAは3月23日に160億元(約2438億円)の巨額調達を完了。
テイクアウトを主力とするカフェビジネス最大のボトルネックの行列に対し、HEY TEAは2019年の秋から無人店舗の導入を開始。平均2時間といわれた強烈な待ち行列は大幅に削減され、今では82%の顧客がアプリ決済経由でのテイクアウトを利用しているという。
コロナ禍蔓延後のこのタイミングでリテール企業への巨大投資が行われることにはいささか疑問符も残るが、アフターコロナに予想される消費形態の変化、すなわち非接触や非密集というキーワードに、HEY TEAは一つの方向性を見出している*10。

 

[アメリカ] 2020-10-09
CasperのIPO不発とコロナ、そしてD2Cに求められる本質

新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的蔓延に伴い、世界経済は停滞を強いられている。それは、成功を約束されていたユニコーンも例外ではない。
Casperはマットレスという伝統的業界に風穴を開け、D2C企業の盟主と目される企業の一つであり、2017年頃には、最も成功を約束されたスタートアップの一つとして称賛を欲しいままにしていた企業で、俳優のレオナルド・ディカプリオやスノーボーダーのショーン・ホワイトも出資している。そのCasperが満を持して今年2月6日に上場を果たした。公開直前で予定公募価格を引き下げ、さらには公開後は公募価格を下回った。公募価格は結局13ドルに落ちついたが、7月15日現在の株価はまだ8ドル弱で推移している*11。
まさにD2Cブームの潮目が変わるタイミングで上場してしまったと言える。
D2Cブームはコロナ禍によって淘汰が加速するだろう。筆者はマーケティングを生業とするが、マーケティング・ギミックだけでは、人は物を買わないということをこのパンデミックが立証し始めている。プロダクトメーカーにとって最も大切な支持者はVCではなく、消費者である。人々は本当に必要なものを吟味し始め、そこにお金を払うのだ。新型コロナウイルス(COVID-19)は消費を停滞させていると同時に、虚構の霧を払っているのかもしれない。

 

[アメリカ] 2020-10-16
ウィズコロナのアメリカのデジタル広告事情

「コロナ禍は早く来たクリスマス」
こう表現するのはデジタルマーケティングの専門誌、Digidayの編集部が6月末に発表した記事である*12。
アメリカではこの春、大手ブランドを中心にデジタル広告の大幅な出稿減が見られた。同時に、BLM(Black Lives Matter)運動に余波で、ヘイトスピーチに適切な対応を行わないFacebookに批判が集中し、こちらもまた出稿が大幅に減額されている*13。
これによって生じたのが、CPM単価(Cost Per Mille:広告1000回表示あたりの単価)の下落である。大手ブランドが出向しなくなったので入札価格が大きく下がった。
体力が乏しいD2Cにとってはクリスマスセールのようなものだったかもしれない。しかし彼らも、いずれ大手と同じ制約を課されてしまうだろう。少なくとも、消費市場自体は回復しておらず、混乱する広告市場の中、強烈な市場のパイの取り合いが続くことになる。

 

引用情報:
*1
AFPBB(2020), 新型コロナウイルス、感染者が確認された国と地域(10日22時30分現在), retrieved from
https://www.afpbb.com/articles/-/3267695?pid=22122348
*2
Newsweek(2020), 中国、新型コロナウイルス死者1000人超える WHOは国外の感染拡大に警鐘, retrieved from
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/02/1000ho.php
*3
Wikipedia(2020), N95マスク, retrieved from
https://ja.wikipedia.org/wiki/N95%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AF
EqualOcean(2020), E-commerce Platforms Prohibit Mask Price Rise as Outbreak Leads to Shortages, retrieved from
https://equalocean.com/news/2020012313455
AFPBB(2020), マスク便乗値上げは絶対に許さず! ネット通販企業が価格安定対策, retrieved from
https://www.afpbb.com/articles/-/3264801
*4
Equal Ocean(2020), Will WeDoctor Be the ‘Billionaire Doctor’?, retrieved from
https://equalocean.com/analysis/2020030713759
*5
Techcrunch(2020), Amazon Care to provide delivery and pick-up of at-home COVID-19 test sample kits in Seattle trial, retrieved from
https://techcrunch.com/2020/03/23/amazon-care-to-provide-delivery-and-pick-up-of-at-home-covid-19-test-sample-kits-in-seattle-trial/
*6
Techcrunch(2020), Grocery delivery apps see record downloads amid coronavirus outbreak, retrieved from
https://techcrunch.com/2020/03/16/grocery-delivery-apps-see-record-downloads-amid-coronavirus-outbreak/
*7
EqualOcean(2020), Why Covid-19 Won’t Harm the Robustness of China’s Retail & Consumer Industry, Part 1, retrieved from
https://equalocean.com/analysis/2020031913785
*8
Amazon.com(2020), Free In-Car Delivery, retrieved from
https://www.amazon.com/b?ie=UTF8&node=17051031011
*9
Panasonic(2020), 戸建住宅用/集合住宅用 宅配ボックス コンボ, retrieved from
https://sumai.panasonic.jp/exterior/takuhai/combo/
*10
EqualOcean(2020), HeyTea to Close New Financing at a Valuation of CNY 16 Billion, retrieved from
http://dev.equalocean.com/news/2020032313808
*11
Mornigstar(2020), Casper Sleep, retrieved from
https://www.morningstar.com/stocks/xnys/cspr/quote
*12
DigiDay(2020), ‘Christmas came early’: For some direct-to-consumer brands spending more on ads during Q2 proved opportune, retrieved from
https://digiday.com/marketing/christmas-came-early-for-some-direct-to-consumer-brands-spending-more-on-ads-during-q2-proved-opportune/
*13
DidiDay(2020), With the Facebook ad boycott, the push for inclusivity arrives in ad buying, retrieved from
https://digiday.com/media/were-going-to-use-our-messaging-and-dollars-to-support-social-justice-facebook-boycott-reflects-wider-need-to-make-media-planning-inclusive/

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