コロナは「DX」を加速したのか?2020年の国内外DXトレンドを振り返る:後編
2020年のコロナ禍でDX Navigatorで取り上げた国内外のDXトレンドを振り返る。後半戦だ。
今年は新型コロナウイルス(COVID-19)をきっかけに、たくさんの変化が起こった。テレミーティングが「普通」となり、出勤しないことが「日常」になった方も多いのではないだろうか。様変わりを余儀なくされた状況の中で、各企業は次の時代へ進むためのあくなき挑戦を続けている。
IT業界でのテレワークが広がる中、テックの聖地にも変化はあるのか
[アメリカ] 2020-05-29ポストZoomのビデオ会議ツールを考える(アメリカの場合)
新型コロナウイルス(COVID-19)の影響により世界中のテレミーティング需要が高まっている中、その旗頭とも言えるZoomが、セキュリティ上の脆弱性を露呈してしまった。もともと問題になったのは仕様上の問題であり、ホストがミーティングルームにロックを掛けていない場合、そのURLを知っているものは誰でも参加して会議を閲覧できてしまうことが一つ。そして、会議中のチャットで特定のリンクを送信し、それをクリックしたユーザーのパスワードを抜き取ることができ、アカウントハックを許してしまうことが問題の発端だった。
これによってZoom Bomberなるハッカーがアカウントを乗っ取り、他人の会議で誹謗中傷をばらまいたり秘匿情報を抜き取るという事件が多発、3月30日にFBIから注意喚起を受けた*1。
そんな状況でにわかに「Zoom以外」のテレミーティング・ソフトウェアが注目を浴びている。
本記事では、米国ZD-netが運営するTechRepublicが勧める「Zoom以外の10の選択肢」をご紹介した*2。
[アメリカ] 2020-09-25
シリコンバレーとNYC、スタートアップ製造装置の二大拠点はアフターコロナでもクラブハウスたり得るのか?
シリコン・バレーは誰もが知るテックの聖地だが、ニューヨーク市と合わせてStartup Hub(スタートアップ・ハブ:スタートアップを資本や提携先とつなぎ合わせる地)の2大巨頭としてこの30年近く君臨してきた。そのTech Hubは、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響によって地位を失うのか?という問いをTechcrunchが同誌の有料記事”Extra Crunch”で投げかけている*3。同誌は、この問いに対して、主力寄稿メンバーであるDanny Crichton、 Alex Wilhelm、Natasha Mascarenhasの3名にそれぞれの意見を反映させる形でこのコラムを成立させている。
一言でいうと、Dannyはあまり変わらない派で、その他2人は変わる派である。
詳しいやりとりはぜひ記事を読んでみて欲しい。
増益や積極投資・巨額資金調達のニュースも相次ぐ
[アメリカ] 2020-06-04RPAのBizteXが6.3億円調達 ―iPaaSはボットをクビにする?
RPA(Robotic Process Automation)という言葉が浸透して久しいが、コロナ禍を起点に導入が進むソリューションとして再び注目を集めている。
Techcrunchによれば、クラウド型RPAを提供するBizteXはこの4月20日、総額6.3億円の調達を完了した。調達の目標はiPaaS領域への事業拡張であるようだ*4。
COVID-19蔓延によって出勤が抑制される状況はしばらくの間続くだろう。RPAは、毎日出勤してやるほどではないルーティンワークを自動化するのは間違いない。しかし、その自動作業を代行するボットも、APIによる直接接続が進めばいらなくなる。その答えの一つがiPaaSの利用であろう。複数SaaSからのデータ移行、統合を手作業で行っていた企業のルーティンを劇的に減らすことができる。コロナ禍はRPAという名のもとに「企業のボット採用」を促進していくことになるだろう。その次はiPaaSの浸透によって「ボットが失業」する時代かもしれない。何れにせよ、コロナ禍が人間がルーティンから解放される時代を加速する可能性は高い。
[アメリカ] 2020-07-10
AI型契約管理SaaSで、孫契約までコロナリスク追跡 ―SirionLabsが4400万ドル調達
SirionLabsは本社はニューヨークに構えるが、創業の地はインドである。その彼らが、4400万ドルのシリーズC調達を完了した、とTechcrunchがこの5月に報道した *5。同社のサービスは契約書のSaaS型管理システムだが、調達契約と販売契約とのギャップマネジメントに特徴を持っている。
そして、コロナ影響下における契約リスクを可視化するCOVID-19ダッシュボードを提供。グローバル企業がローカルで締結している「孫契約」に至るまでを解析し、コロナ禍によるリスク算出と可視化を試みている*6。
Techcrunchの同記事によれば、同社の顧客数は過去18ヶ月で4倍に増加したという。また、同社CEOのAjay Agrawalによれば、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響下で、各企業が既に締結済みの契約の履行責任に対して、より注意を払うようになったという*7。
[アメリカ] 2020-07-24
サプライチェーン管理ソフトウェア会社source dayが大規模調達
クラウド型サプライチェーン・マネジメント・システム(SCM)を提供するSourceDayが1250万ドルの調達に成功した。同社のキーワードはException(例外)とCollaboration(協調)である。すなわち、キャッシュフローや売上のリスクになり得る「例外的な」調達取引をはじき出してレポートする仕組み(PO Exception)と、個別のメールやスプレッドシートを使わず、バイヤーとサプライヤーが同じ環境の上で取引情報を交換する仕組み(PO Collaboration)を提供する*8。
[中国] 2020-07-31
テンセント増収増益。コロナ危機を味方につけ、前年同期比25%成長で1.7兆円
やはりといえばやはり、ということになるが、テンセントの収益は好調である。調査会社Equal Oceanによれば、新型コロナウイルス(COVID-19)の社会封鎖期間と見事にかぶった同社第1四半期の業績は、前年比26%増の1080億元(約1兆6277億円)、その中でオンラインゲームの売上は31%の上昇したという*9。
コロナ禍において経済全体が痛む中でも、テンセントは依然として増収増益を続けている。中国経済を牽引しているデジタル企業の雄は、新型コロナウイルス(COVID-19)危機において凹むところかその存在感をさらに強くしている。都市封鎖中、武漢市でのロボット配送やJD.comでのマスク価格高騰抑制、We Doctor(微医)で、オンライン医療を促進した姿勢は記憶に新しい。
[アメリカ] 2020-08-07
ID管理のForgeRock、巨額調達完了ーアフターコロナのIPOの雄となるか
ForgeRockという企業がある。2010年創業で、スタートアップとしてはレイトステージに入るシリコンバレーの会社であり、IDマネジメントのSaaSプラットフォームを提供する。彼らはこの4月、「おそらくは最後」とするシリーズEの資金調達を発表*10 。
ForgeRockは、GAFAにしか出来なかったIDマッチの技術を様々な企業に提供していくことになる。圧倒的な技術力と蓄積されたデータに裏打ちされた彼らは、市場の蛇口を握っており、多くの企業は彼らにひれ伏さざるを得ない状況が続いている。ForgeRockは、ある意味GAFAの競争優位性を小さくし、他の企業に挑戦権を与える位置づけかもしれない。巨額の資金調達実績がその未来への期待を裏付けているといえるだろう。
[中国] 2020-08-28
中国スマホ大手Xiaomi(小米科技)、IoT企業に積極投資、その数300を超える
Xiaomiは2020年上期の段階で、ゆうに300を超える企業に出資しているという。それらはいずれもIoT関連企業である。同社の時価総額は45.4億ドルに上る中国ITの巨人の一人である。この巨人の創始者であるLei Junは、2013年から5年の間に100社のハードウェア企業に投資することをコミットし、これを実現。投資継続は以後も続き、2020年3月の段階で300社を超えているという。そして、さらに興味深いことは、この報道が中国メディアではなく、アメリカのテックメディア代表格であるTechCrunchが報じていることだ*11。
Xiaomiは既に日本に上陸しているが、まだ格安スマートフォンとしてのポジションでしか認識されていない。しかし、彼らが蒔いている種は広く、大きい。既にスマート炊飯器も、スマートスーツケースも販売されている*12。遠くない将来、日本市場でも彼らのIoT家電を目にすることになるだろう。Miブランドを意識しなくても、気がつけば使っているかもしれない。
そしてその挑戦は、結果的にDXに結び付くことになると、DX Navigatorは確信している
[アメリカ] 2020-05-223Dプリンターで医療用メガネを作るFitzが医療従事者を救う
画像 Fitz社サイトより抜粋。https://www.fitzframes.com/fitz-protect
現在、医療従事者に必要な新型コロナウイルス(COVID-19)感染対策グッズは全世界的に枯渇しており、二次感染や院内感染、そして医療崩壊の大きな一因になっている。その重要グッズのうちの一つが、医療用メガネである。
Techcrunchによれば、3Dプリンターを活用したアイウェアを製造するFitzは、医療従事者向けのカスタムフィットメガネを製造し、無償で提供を開始する。アメリカの医療従事者のうち60%はメガネを使用している。メガネに対応した医療用ゴーグルやシールドは供給量が少なく、コンタクトレンズは感染防御の観点から推奨されないというガイダンスが出ている。すなわち、防御機能のあるメガネは、医療従事者にとって極めて重要なグッズとなる*13。
[アメリカ] 2020-07-04
コロナ禍の中、HubSpotの新型CMS Hubがベールを脱ぐ
この4月、HubSpotがCMSサービスを新たにリリースした。名称はCMS Hub。これまでCMS機能はインバウンドマーケティングの軸とも言える同社基幹サービスのMarketing Hubに包含されていたが、この度、サービス群の名称、Hubとして独立することとなった。
CMS HubやShogunを始めとしたサービスは、フロントエンドとバックエンドを分離して運用できるようにすることで、スピードと障害リスクを切り離し、同時に両方の生産性を高めることになるだろう。何より、「CMSだけでも切り離したい」と考える人達に、CMS Hubは朗報だ。少なくともWordpressのようにサーバーを用意しなければならない必要もないし、Marketing Hubからは独立しているので、既にSalesforceなどのマーケティングツールが導入されていても機能がかち合うこともない(以前HubspotのCMS機能はMarketing Hubの一機能だったので、LPOやMA、リード管理といったCRM系オールインワンツールと完全競合状態だった)。
コロナ禍で一層デジタル商流の重要性が増していく中、CMS Hubは一つの光明となるかもしれない*14 。
[アメリカ] 2020-09-11
SpaceX、ロケット代行と衛星通信インフラ企業への進化が始まるか ―通信衛星Starlink、通算538基打上げ完了
この6月13日、宇宙開発のSpaceXは通信衛星を新たに58基打ち上げたことを発表。これによって同社が打ち上げたブロードバンド通信衛星、Starlinkは通算538基となった。また今回始めて他社と積載スペースを共有し衛星画像解析サービスなどを手掛けるPlanet社の衛星3基を宇宙まで運んだ。
この発表が意味するものは大きく2つ。衛星間ブロードバンド通信の実用化が現実味を帯びてきたこと、そして衛星打ち上げの「ライドシェア」、つまりSpaceXのロケット輸送代行ビジネスが始まったことである。TechCrunchによれば、同社は北米にて衛星を活用したブロードバンド・インターネットサービス展開を目指しており、また、Rocket Labなど打ち上げ代行に特化したサービスが既に出現しており、SpaceXとしては市場競争力を知らしめておく必要があった*15。
[中国] 2020-10-27
コロナ禍をものともせず、2020年中国IPOは今年も進む
中国の2020年4-6月期のGDPは成長に転じた。コロナ禍の全四半期(1-3月期)からの復活だけではなく、昨年の同期比で3.2%の成長となった。
BBCなどの報道によれば、この成長を支えているのは政府による積極的なインフラ投資であり、雇用状況も厳しく、小売業は未だ停滞中。今回のGDP成長も、コロナ前の成長水準には届いていないという*16,*17。それでも、中国のリテールの未来は明るく、市場も強気姿勢を見せている。
引用情報:
*1
東洋経済(2020), 利用者が爆増「Zoom」を使うと何が危ないのか,
retrieved from
https://toyokeizai.net/articles/-/342571
*2 TechRepublic(2020), Top 10 Zoom alternatives for video conferencing,
retrieved from
https://www.techrepublic.com/article/top-10-zoom-alternatives-for-video-conferencing/
*3
Techcrunch(2020), 3 perspectives on the future of SF and NYC as startup hubs, retrieved from
https://techcrunch.com/2020/06/12/3-perspectives-on-the-future-of-sf-and-nyc-as-startup-hubs/
*4
Techcrunch(2020), クラウドRPAとiPaaSの二刀流で企業の業務自動化を支援へ、BizteXが6.3億円調達,
retrieved from
https://jp.techcrunch.com/2020/04/20/biztex-fundraising-pre-series-b/ ,2020.06.05
*5,7
Techcrunch(2020), SirionLabs raises $44M to scale its contract management software, retrieved from
https://techcrunch.com/2020/05/13/sirionlabs-raises-44m-to-scale-its-contract-management-software/
*6
SpendMAtters(2020), CORONAVIRUS RESPONSE: Contract Analytics — Finding and Managing Contractual Risk and Reward in a Pandemic, retrieved from
https://spendmatters.com/2020/04/21/coronavirus-response-contract-analytics-finding-and-managing-contractual-risk-and-reward-in-a-pandemic/
*8
Techcrunch(2020), Austin-based SourceDay closes $12.5 million for its supply chain management software, retrieved from
https://techcrunch.com/2020/04/07/austin-based-sourceday-closes-12-5-million-for-its-supply-chain-management-software/
SupplyChaiDigital(2019), SourceDay: There's no crying in supply chain management, retrieved from
https://www.supplychaindigital.com/scm/sourceday-theres-no-crying-supply-chain-management
*9
EqualOcean(2020), Tencent Beats Earning Consensus after 'Stay-At-Home,' Gaming Drives Revenues,retrieved from
https://equalocean.com/news/2020051413977
*10
Techcrunch(2020), ForgeRock nabs $93.5M for its ID management platform, gears up next for an IPO, retrieved from
https://techcrunch.com/2020/04/21/forgerock-nabs-93-5m-for-its-id-management-platform-gears-up-next-for-an-ipo/
*11
TechCrunch(2020), Xiaomi’s investment house of IoT surpasses 300 companies, retrieved from
https://techcrunch.com/2020/05/22/xiaomi-investment-portfolio-surpasses-300-companies/
*12
Xiaomi(2020), Corporate site, retrieved from
https://www.mi.com/jp/
*13
Techcrunch(2020), 3D-printed glasses startup Fitz is making custom protective eyewear for healthcare workers, retrieved from
https://techcrunch.com/2020/04/20/3d-printed-glasses-startup-fitz-is-making-custom-protective-eyewear-for-healthcare-workers/
*14
Techcrunch(2020), HubSpot unveils new content management system aimed at marketers, retrieved from
https://techcrunch.com/2020/04/07/hubspot-unveils-new-content-management-system-aimed-at-marketers/
PRTIMES(2020), HubSpotが2年ぶりの新製品群、「CMS Hub」をリリース, retrieved from
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000017.000037724.html
Hubspot(2020), Hubspot CMS Hub, retrieved from
https://www.hubspot.jp/products/cms
*15
Techcrunch(2020), SpaceX launches 58 more Starlink satellites and 3 Planet Skysats for first rideshare launch, retrieved from
https://techcrunch.com/2020/06/13/spacex-launches-58-more-starlink-satellites-and-3-planet-skysats-for-first-rideshare-launch/
*16
BBC(2020), 中国経済、第2四半期は3.2%拡大 景気後退を回避, retrieved from
https://www.bbc.com/japanese/53427115
*17
日本経済新聞(2020), 中国、プラス成長に転換 4~6月GDP3.2%増, retrieved from
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61572680W0A710C2MM0000/※編集部注:TechCrunch Japanの引用記事は、引用当時に存在していたURLを掲載しています。同サイトは2022年5月1日にて閉鎖となるため、リンク先記事が消失している可能性があります。